#03_2 シアイオウエン
やはりというか何というか、芽衣に当日の集合時間や場所は伝えられなかった。
一応、芽衣が初回入部した5月くらいに作成された『女子ダンス部1年』というメッセージのグループはあるのだが、おそらくこのグループは現在使用されていない。新しく作成された芽衣以外の8人が参加しているグループで、集合時間やダンスのフォーメーション、そしておそらく芽衣の悪口が展開されているだろうというのが芽衣の予測である。
「そんなんさぁ。『集合時間がわからなくて来れませんでしたー』とか言ってブッチすればよくね?」
昨日の放課後スタバ会議で愚痴ってみたところ、案の定彩花はそうバッサリ切って捨ててから、アイスほうじ茶ラテを一口。
「……ってできないのがメイちゃんだってわかってるけどね。リハあるならフツウに1時間前とか? まあ、余裕見て2時間前とかに行ってればセーフと思うよ」
「そっか。確かにサナ先生とか、そのくらいの計算で集合時間決めてたっけ」
それでも完全にシャットアウトはせず、芽衣のために対策を考えてくれるところが彩花の良いところだ。
「でもさ。そんな幼稚な嫌がらせされて、その部活楽しい?」
「うーん……どうだろうねー」
そんな優しい彩花の言葉に前向きな言葉が返せず、芽衣はうつむいてキャラメルフラペチーノのカップをストローでかき混ぜる。
ハッキリ言えば、部活は全く楽しくない。それでもダンスを踊ることは大好きなので、何とか女子ダンス部にぶら下がっている。そんな状況で。
「あのね。前にも言ったけど、ダンスはどこでもできるよ? サナ先生のところでもいいし、他の、高校生対象のスクールでもいいし。メイちゃんだったら経験者扱いで入れてもらえると思うしさ」
心から自分のことを心配している声に涙腺が緩みそうになるが、何とか堪えて、芽衣は小さく苦笑して彩花を見返した。
「だーいじょうぶだって! リョウマくんにも応援パフォ頼むって念押しされてるし。幼なじみの頼みだから、行くしかないっしょ」
「あー、ワンコのリョウマくんかー。彼元気? まだ野球やってるんだ」
同じ小学校出身の彩花も涼真を知っている。彼女の頭の中では彼が昔の『ワンコのリョウマくん』のままなのがちょっと嬉しかった。まだ確証が得られていないので、嫌がらせの原因が涼真かも知れないという点については話していないし、あまりする気も起こらない。
「頑張ってるみたいよ。1回戦でも代打で出たって」
「わ、そうなんだ。2回戦、予定合ったら見に行ってみようかなー」
「野球応援は暑いし日に焼けるし過酷だから、ヤなんじゃなかったっけ?」
「いや。私他校生だしチアじゃないし、見に行くだけなら大丈夫。イヤになったら先帰れるし」
言いながら彩花は、スマホを操作し始める。芽衣の通うM高の、夏の高校野球予選の日程を調べているようだった。「会場って昭和スタジアム?」と聞かれて初めて、芽衣は明日の試合会場すら聞かされていなかったことにようやく気づく。逆に彩花に試合開始時間と場所を教えてもらい、ギリギリセーフで試合の詳細を知った。——まったく。嫌がらせも結構だけれど、ちょっと度を超してないか、コレ?
*
……というワケで、彩花調べの試合開始時刻2時間と少し前。
場所は、試合会場である昭和スタジアムの、バックネット裏入り口前。
「遅刻で文句を言われてたまるか!!」という気持ちで気合い入れて早起きしてきた結果、スタジアム入り口近くには芽衣の他、犬の散歩をしているおじいさんとジョギング中の男の人くらいしか見当たらない。それでもまあ、遅刻だけは回避できた……と自分を慰めつつ、芽衣は入り口近くの日陰に移動して、歩道の端にある段差に腰を下ろした。
ただ試合を見に来るだけであればちょっと早すぎる時間だが、おそらく試合に出場する涼真たち野球部員は、あと1時間くらいでここにやってくるはずだ。その時間になれば観客席も入場開始になると思うので、応援団やチアリーダーも現れる。野球部や応援団と違って部室に大きな荷物があるわけでもない女子ダンス部は、トラブルで応援団が遅れてもリカバリーができるという理由で、伝統的に現地集合のはず。万一学校集合だったとしても最終的にここで合流できるのだから、出演に穴を開けることだけはない。だから大丈夫。
「あっ……古橋、サン」
「あ、おはよう」
試合開始1時間半前くらいからぽつぽつ女子ダンス部1年生メンバーが集まり始めた。つまりおそらく、集合時間はやはり試合開始1時間前で、1年生はその30分前集合ということになっていたのだろう。シャイニング子1号2号は既に到着している芽衣に気づき、あからさまにイヤな顔をしていたがスルーして、先輩たちの到着を静かに待つ。
試合開始1時間前程になると、野球部や応援団、そして涼真たちの入り待ちなのだろうか、見たことのある涼真の取り巻き女子たちがちらほら、球場入り口付近に集まり始めた。もちろん高校野球予選を見に来た、熱心な観客の姿も見え始める。
「女ダンの皆さん、今日はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
やってきた野球部員や応援団員と挨拶を交わしていた時、彼らの向こうに彩花の姿を見つけた。芽衣を心配して、少し早めに来てくれたのだろう。他校生で、しかも幼なじみの彩花は涼真の姿を見つけて遠巻きにキャアキャア言っている女子たちを尻目に、遠慮なく、野球部員の群れに向かって「おーい、リョウマくーん」と声をかけている。
「あれ? アヤカちゃん。久しぶり。見に来てくれたんだ」
「うん。せっかく見に来たんだから、ちゃんと試合出てよねー」
「そう言うの、是非アヤカちゃんから監督に言ってよ。1年の鈴木を使って! ってさ」
親しげに言葉を交わす二人を、シャイニング子1号2号をはじめとする涼真の取り巻きは面白くない表情で眺めていたものの、さすがに知らない他校のJKに敵意丸出しな態度は取れないらしい。ホッとしたのもつかの間、涼真が笑顔でこちらに視線を向けた瞬間、それまで抑えていた敵意を全開にしたシャイニング子1号2号の視線が芽衣に突き刺さってくる。
「メイちゃん! 来てくれたんだ。ありがとう。メイちゃんのダンスにパワー貰って、俺、頑張るから!」
「あー、うん。頑張って」
涼真のワンコの笑顔。シャイニング子1号2号の突き刺さる視線。それを観測者の目線で冷静に眺める彩花。4対の目がこちらを見ている視線の向こうから、その時、芽衣は新たな視線を感じた……気がした。首の角度を変えてそちらを覗き見ると、芽衣たちと同じくらいの年齢の男性と、彼よりも少し年上に見える男性の二人連れがこちらに近づいてきている。彼らに気づいた彩花が、芽衣から視線を外してそちらを振り向いて。
「あー、社長。スミマセン、ご足労頂いて」
「ううん。野球キライじゃないから大丈夫」
間違いない。彩花が親しげに話している相手は、先日事務所に乗り込んで対峙した『ふぉーぱーそん』の社長こと神尾兄。そしてその一歩後ろから彼のあとを付いてくるのが先日芽衣とダンス対決をした(らしい)銀髪イケメンVチューバーのダンこと、田町廉似のリアルイケメン神尾弟だ。何故こんなところに現れたのか芽衣には全くわからないけれど、その簡単な会話から、彩花がこの場所と時間を指定して待ち合わせたことだけは何となく理解できた。
「じゃあ1年、行くよ」
彩花に聞こうと思ったその瞬間ダンスリーダーの先輩から集合がかかり、芽衣は「ハイッ」と返事をしながらそちらに走って行かなければならなくなる。この後は、おそらく試合終了まで絶対服従だ。事情は試合終了後か次回の放課後スタバ会議で聞こうと諦め、芽衣は先輩たちに続いて観客席へと向かった。
「試合前の選手に個人的に声かけとか、規律乱してるっていうかー、図々しいよねー」
「ねー。立場わきまえろっつーの」
背後からイヤミたっぷりのシャイニング子1号2号の声が聞こえてくる。スルー能力もだいぶ磨かれてきた。サナ先生の「チアリーダーは笑顔!」の金言を胸に、表情筋を笑顔の形に整える。とにかく今は、試合に向けて平常心、平常心。
*
観客席での芽衣の配置は、ファウルポール近くの3塁側内野に設置された学校席エリア内、グラウンドから見て左端。バックネット裏席に近い側の、後方から3番目の位置だった。
応援団とは逆で、芽衣たちチアダンサーは基本的に観戦客と同じ、グラウンド側に面して立つ。他の1年生も芽衣と同じ後方配置で、1年生だけで言えば、芽衣はグループの最前列右端だ。グラウンドに近い下の方には上級生がいるので、下級生が後方配置なのは、フリがわからなくなった場合下を見れば良いという配慮なのだろう。部活に入った時期を考慮するともっと後ろの方になるのが妥当とも思えるが、この辺の采配は1年生のリーダーであるシャイニング子2号あたりが決めたに違いない。最大限に好意的な解釈をすれば、芽衣が経験者だからという理由が適用されたのかも。
芽衣の近く、立ち位置の左手に当たる外野に近い学校席エリアには、在校生や卒業生などの姿がちらほらある。グラウンドに近い下の方の入りには届かないものの、まあまあの混雑。対してバックネット裏に近い、立ち位置の右手はほぼ空席だ。バックネット裏席までは屋根があるので、皆日陰を求めてそちらに寄っているのだろう。まだ第1試合開始前だというのに、太陽は既に、観客席にもコンクリートの通路にもギラギラと照りつけていた。
「あっつーい! 帽子ないとキツイよねー。今日はキャップあって良かったー!」
芽衣の5段ほど上に配置されたシャイニング子1号が芽衣にイヤミを言う時の口調でそう言いながらニヤニヤ笑って、スポーツバッグから『M』と白糸で刺繍の入った紺色のキャップを取り出す。野球部のユニフォームに使われているキャップと同じものだ。
「各自熱中症気をつけて! キャップももう被っておいて」
ほぼ同じタイミングで、最下段のセンターにいるダンスリーダーの先輩から声がかかる。ここでようやく、芽衣にもシャイニング子1号のニヤニヤ笑いの意味がわかった。芽衣には「野球部ユニフォームのキャップを持ってくること」という伝達が来ていない。なので当然、そのキャップは持っていなかった。他部活のユニフォームの類は貸与のはずだが、今現在、芽衣には貸し出されていない状態。貸し出された芽衣の分のキャップはシャイニング子たちの辺りで止められ、今頃は部室のどこかだろう。
「あれー? 古橋サン、キャップはー? 鈴木くんから借りてるんだよねー? 早く被ればー?」
シャイニング子1号に嫌みったらしくそう声をかけられても、キャップの入っていないことがわかっているバッグを開ける気にもならなかった。立ち尽くす芽衣の背中に、明らかに調子に乗っているシャイニング子1号の声が当たって跳ね返る。
「今から借りるの、間に合うー? 間に合わないと、古橋サンだけキャップなしになるよねー。ホント、古橋サンって、規律乱すよねー」
途中でパーツが取れたわけでもなく、スタートの時点で、一人だけユニフォームが揃わないのは結構みっともない。そもそも見た目の問題以前に、炎天下、帽子がない状態で3時間近く踊るのは危険だ。今のうちに上級生に話して、今日はフォーメーションから外してもらうか? ——ここに来て初めて、芽衣の『チアリーダーの笑顔』が崩れた。こんなに暑いのに、膝下から震えが上がってくる。……どうしよう? どうしたらいい?
焦る芽衣の背中に、その時、シャイニング子1号の声でないものがぽすりと当たった。
物理的な感触に振り返ると、足下に『M』の文字が白く入った紺色のキャップが転がっている。よく見れば『M』の文字は印刷だし、少し紺の色や文字のデザインも違うようだが、今回のようにメンバー同士が離れて踊る分には問題ないだろう。少なくとも、この猛烈な日差しは避けられる。
「良かったら、使って」
立ち位置右手の斜め後ろ辺りにいた男が、愛想良く笑いながらひらひらと手を振って芽衣に向かって叫んだ。助かった、とか、ありがたい、とか思う前に、その手の振り方が配信終了前の挨拶と同じだとふと思う。
「あっ、ありがとうございます。でも」
「いいからいいから。さっきそこで買ったばっかりだから、キレイだよ。領収書ももらったし、ソレ、経費で落ちるから心配しないで!」
ほぼ誰もいない観客席に、左から彩花、社長こと神尾兄、ダンこと神尾弟の順番で座っている光景は、ジュウシマツのような小鳥が止まり木に固まって止まっている様を連想させた。芽衣にキャップを投げたことで帽子ナシとなった神尾兄に、隣の彩花が差していた日傘を傾け、その影に入れてやっている。愛想良く手を振る神尾兄の横で弟のダンだけが自前の黒いキャップを深く被り、芽衣の方ではなくグラウンドの方を向いて、試合開始前の練習を眺めていた。
神尾兄と、その横で小さく手を振ってくれた彩花にこちらも胸元で小さく手を振り返し、芽衣はキャップを被って「よしっ」と気合いを入れる。
——大丈夫。あいつらが何をやってきても、私には味方がいる。こんな近くに。
そう感じただけで、嘘みたいに芽衣の気持ちは軽くなった。
試合前の応援指導、試合中の客席への声かけ、野球応援……と、その後は息をつく間もなくやることが押し寄せ、彩花たちのことも、シャイニング子たちのことも、何なら試合をしている涼真たちのことも考えられなくなる。
試合中も後ろから「ごめーん。手が滑っちゃってー」とメガホンを投げつけられたり、「指示ボードが見えなーい。イジワルしないでもらえるー?」と文句を言われたり、挙げ句の果てには置いてあった芽衣のポンを階段席の下の方まで蹴り飛ばしてくれたり、シャイニング子1号の攻撃は激しく繰り出されていたが、正直、そんなことにかまっている余裕はなかった。ただ出されるボードの指示に合わせて踊り、声をかけ、アピールをしているうちに時間も回もどんどん過ぎ、あっという間に試合は終了。終わってみればM高の猛攻で7回コールド勝ちだったので、実際問題、普通の試合より回数は少なかったようだ。
夏の高校野球予選の常で、勝っても負けてもその余韻に浸っている暇はない。第1試合のM高応援団である芽衣たちは試合終了後、即座に片付けて、第2試合の応援団に場所を明け渡さなければならなかった。それは、応援団だけでなく観客にも言えることで、荷物をまとめながら芽衣が振り返ってみると、彩花たちも飲み終えたペットボトルを手に、外へ出るため立ち上がっている。芽衣たち女子ダンス部はここで現地解散とはならないだろうから、彩花たちと話をするにしても、それは後日。神尾兄弟が来たことについては後で彩花にメッセで聞こう……と前を向き、芽衣は観客席の階段を降りかけた。
「メイちゃーん! 応援ありがとーう! パワー貰ったよ!」
スタンドでの応援に並んで頭を下げた後、ベンチに引きあげる選手の列から抜けた涼真が、目ざとく芽衣を見つけて大声で叫び、手を振ってくる。そちらに向かって、反射的に芽衣も小さく手を振り返す。
その刹那——ドンと強い力が、背中にかかった。作用反作用の現象で、身体が前にはじき出される。
突然のことだった。疲れてもいた。試合が終わって緊張の糸が切れ、足下もおぼつかなかった。もしかしたら、軽い脱水症状なのかもしれない。それでも、あんなに体幹トレーニングを重ねていたのに、ちょっとシャイニング子1号に体当たりされただけでふらつくなんて、やられたことよりむしろ、この結果を大いに恥じたい——なんて、この絶体絶命のタイミングで、人間は何故くだらないことを考えてしまうのだろうか。それほどまでに体当たりからよろけて階段を落ちかけるまでの体感時間は長く、ごくゆっくりしたスローモーションの中にいるように芽衣には感じられた。ようやく「あ、もしかしてヤバいかも」と思い至ったあたりで、後ろからぐっと腕を掴まれ、引っ張られる。
「メイちゃん! 大丈夫!?」
ペットボトルも日傘も全部放り出して駆け寄ってくる彩花。でも、腕を掴んだのは彼女ではない。もちろん、彩花の後ろでスマホから顔を上げたばかりの社長こと神尾兄でもない。
「気をつけろ」
芽衣から一番近い位置にいたダンこと神尾弟が、そう言いながら芽衣の腕を離さず、逆に掴んだ手のひらに力を込めてきた。鋭い反射で、きっとあの大きな鳥のようなしなやかな動きで、素早く飛んできてくれたのだ。助かったけれど……その後の気遣いは一切ない。階段の段差と身長差の関係で、芽衣は右腕を肘から吊り上げられたような格好になる。
「怪我なんかしたら、しばらく踊れなくなる。……敵に、背中なんか向けるなよ」
デフォルトの仏頂面でそう芽衣に告げると、ダンは表情を変えずに、シャイニング子1号の方に顔を向けた。
「で、アンタもいい加減にしろ。こんなトコから落ちたら、結構ヤバイぞ」
「あの、でもー、わざとじゃなくってー」
この期に及んでも、シャイニング子1号は言い訳の言葉を口にしながらくねくねとしなを作り、ダンを上目遣いで見上げている。その田町廉似の整った顔を見て、薄く笑顔まで浮かべていた。が、ダンにギロリと睨まれ、ようやくシャイニング子1号の顔から笑顔が消える。今度はあっという間に青ざめ、彼女は近くに寄ってきたシャイニング子2号の横に駆け寄った。構図としては映画のポスターより1号が少し後ろ。2号の背中に半分隠れるような状態だ。
「まあ、殺人より過失致死の方が、総じて罪は軽くなるから、そう主張したくなる気持ちもわからなくはないけどさ。今は、人類総リポーター時代。映像の力は偉大だよ?」
彩花の後ろから、社長も笑顔でダンに加勢する。よく見ると彼の手には、この間芽衣たちが事務所に押しかけた時と同じように、スマホが構えられていた。もちろん、外部カメラはこちら向き。
「そもそもアンタさ、ヒトにちょっかい出してる暇あるなら練習しろ。体幹も弱すぎるし、手足の動きがバラバラ。力抜きすぎ。見てても全然ワクワクしないし、見苦しい」
「ちょま、お前、何で今、このタイミングでダンス指導入る?」
何かがツボに入ったらしく、しっかりスマホを構えたままゲラゲラ笑う社長は無視して、ダンは更に一歩シャイニング子たちの方に近寄る。磁石がはじかれるように、シャイニング子たちが同じだけ後ずさり、ダンから離れる。
「あんな適当なダンスで、『疲れてふらついた』とかねーから。これ以上コイツに何か危害加えんなら、この動画、M高タグ付けて公開すんぞ?」
「あのっ、でもそれはっ、部の規定で禁止でっ」
「じゃあ、学校の問い合わせフォームに送ってやる。それならいいよな?」
「いやいや。もみ消されたらつまんないから、直接マスコミに売りつけるのも面白いよ。『スポーツエリート校の闇』とか言ってさ」
凄む田町廉似のイケメンと表情だけは穏やかなインテリヤクザに詰め寄られ、シャイニング子たちは既に泣いていた。捕まった宇宙人よろしく腕を吊られたままの芽衣は最前列でこの騒動を眺めていたが、トラブルに気づいたダンスリーダーの先輩が階段を上がってくるのが遠くに見えて、吊られた腕を力一杯自分の方に引き戻す。
「あの。もういいから! 先輩来ちゃったらもっと面倒なことになるし!」
芽衣の言葉に、ようやくダンが腕から手を離した。仏頂面のまま、芽衣を見る。
「アンタがそれでいいなら、いいけど」
自分たちから視線が外された瞬間、シャイニング子たちはその場から逃げ去った。その他にも試合を見終わり帰る人と、今から試合を見に来た人。売店に何かを買いに行く人。応援の準備をする人。撤収のため片付けをする人……たくさんの人たちが大きな水槽の中の魚たちのように行き交う。そんなざわざわと人が交差する野球場の観客席で、芽衣は何故か、ダンと自分だけが時間から切り離されたような、そんな錯覚に陥った。——たくさんの人がそこにいるはずなのに、そこからガラス一枚隔てられたような。雑踏の映し出されたスクリーンの前に、二人だけで向かい合って、静かに立っているような。
ざわめきの中で、ダンの声だけが鮮明に耳に届く。
「アンタが欲しかった仲間って、やりたかったダンスって……本当にコレ?」
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