チカラノカギリ

#04_2 ケッショウセンニテ


 翌朝。天気予報のお告げ通り、空は朝から雲一つない快晴だった。
 よく言えば、野球観戦日和。一般的には、今季最高気温が更新されそうな真夏日(あるいは酷暑日)。座っているだけでも干からびそうなこんな日だが、地方予選の決勝戦ということで、熱心な観客が朝早くから球場に詰めかけている。芽衣が到着した、以前は犬の散歩やジョギングの人しかいなかった試合開始2時間前には既に、球場前に試合の入場券を求める人の列ができている状態だ。
「メイちゃーん、おはー」
 列の比較的前の方から、芽衣の姿を見つけた彩花が手を振ってくる。
「え、アヤカ、なんか早くね?」
「うん。シャチョーがね、絶対混むから早い方が良いだろうって。で、この時間」
 言われて彩花の横に視線を移すと、見覚えのある仏頂面のイケメンと派手なTシャツを着た笑顔の茶髪が、会話もなく入場券の列に並んでいた。二人ともを知っているからこそこの二人が連れだと芽衣にはわかるが、知らない人なら単に、列で前後になっただけの人としか見えないよそよそしさだ。
「あー、ナルホド。……で、肝心の社長は?」
「どこだろうね。まだ今日は姿見てないけど。問題はまさにそこだよ」
 怒りを存分にはらんだ彩花の言葉に苦笑していたその時、芽衣は刺さるような視線を感じた。視線の先に顔を向けてみると、その主はダンではなく、その隣でスマホをいじっていた茶髪の方だったことに驚く。
「えっと、あの、何か?」
「あ〜、ごめんね〜。メイちゃん、踊ってないときどんなだか、観察してただけ〜」
 視線をとがめられてもニャムは特に悪びれる様子もなく、ニコニコ顔。隣でダンが、面倒くさそうにニャムの方をチラリと見てから、すぐに目をそらし、芽衣の方を見た。
「やっぱ、踊るんだ。今日も、前と同じ立ち位置か?」
「あー、えっと……多分、同じかな」
 ダンはいつもの無表情を通り越して、ちょっと怒っているようだった。少なくとも、上機嫌という感じではない。もしかしたら隣にいるニャムが必要以上のニコニコ顔なので、その対比でより一層、不機嫌そうに見えるのかもしれないけれど……。
「M高女ダン、集合! こっちに集まって!」
 何か声をかけた方がいいかな……と思ったものの、折悪くかかる集合の声が最優先。会話が宙ぶらりんになってしまったままではあるが、芽衣はいつの間にか来ていたダンスリーダーの方へダッシュで駆け寄る。混雑を予想したのか、今日は集合がこの前より早かった様子。ギリギリセーフだ。
「メイちゃ〜ん、頑張ってね〜!」
 背中に、聞き慣れない声が当たって跳ね返る。先輩に気づかれないよう浅く振り返ると、派手なTシャツにハーフパンツという、見ようによってはだいぶ柄の悪い茶髪男が、満面の笑顔でスマホを持ったまま、その手をひらひらと振って芽衣の方を見ていた。芽衣だけでなく、周囲の人たちが手を振るニャムに注目しているのは他に娯楽がないからか、それとも思いがけずニャムが人好きする、優しい笑顔をしているからだろうか。
 彼に手を振り返したら周囲にまた新たな敵を作ってしまうような気がして、芽衣は心の中で申し訳なく思いながらニャムから視線を外し、先輩たちに続いて観戦席へ続く階段を駆け上った。そして。

*

 芽衣の立ち位置は、前回彩花たちが来てくれた試合と全く同じ場所だった。
 3塁側の、グラウンド側から見て学校関係者エリアの左上部。最上段から数えて3人目。球場も同じ昭和スタジアムだったため、立っている階段の段まで全く同じだ。
 自分の立ち位置についてすぐ、一般入場早々に彩花たちがやって来る。オープンには間に合ったらしく、ダンとニャムの他、社長が一緒だった。今回は混雑が予想されるからか単にその方が良いと思ったのか、芽衣の立ち位置から1段上という至近距離——学校関係者席から通路を挟んですぐ隣の、通路沿いの席に4人が並びで座る。芽衣に近い通路から順にダン、社長、ニャム、そして彩花の順だ。彼らに手を振る間もなく、続々とやってくる観客でどんどん座席が埋まっていく。
「この前のバレー部の応援はサボったのに、涼真くんのいる野球部の応援には来るんだぁ。ちょっとあからさますぎなーい?」
 前回と同じ立ち位置から嫌味を投げつけてくるシャイニング子1号は無視することに決めて、芽衣はよし、と自分自身に気合いを入れた。
 まだ試合開始まで1時間ほどあるというのに、学校関係者エリアは芽衣たちがいる辺りまで既にほぼ満席。前回とは観客数も、その熱量も段違いだ。今はこの強い思いを受け止め、また自身も思いを込めて踊ることが最優先で、意地悪なチームメイトにかまってなどいられない。おそらく、シャイニング子1号にだって、そんな状況は理解できるだろう。……理解できると信じたい。
 グラウンドでは、M高選手たちの練習がスタートしている。守備練習に出てきた、他の選手より一回り身体の大きな涼真が、学校関係者エリアの方を振り仰いで見た。小学生の頃から両目2.0を誇る(とドヤっていた)視力で芽衣を見つけたのだろうか、例の、散歩に行く直前の犬のような笑顔を作ってこちらに軽く手を振る。
「キャーッ! 涼真くん、今手振ってくれたよね? マジ嬉しいんですけど!」
「涼真くん、ウチらのこと認識してるとか神過ぎ! 死ぬ気で頑張んないと!!」
 芽衣の後ろでシャイニング子1号と、その5段上に配置されているシャイニング子2号は大盛り上がりだ。誤解でも何でも、それをモチベーションに、集中して頑張って欲しい。願わくは、芽衣への嫌がらせにリソースを割く余裕すらないレベルの集中希望。
「ねえねえアヤカちゃん、あのマッチョイケメン選手、誰〜? メイちゃんの彼氏だったり〜?」
「あー、違いますよ。彼はあの子と私の、昔からの幼なじみってだけで」
「へ〜。彼、メイちゃんに見事に懐いてるねぇ〜。モテそうなのに、あえての幼なじみルートなんだぁ〜」
 斜め後ろの方から聞こえてくるニャムと彩花の話し声がシャイニング子たちに聞こえないように祈りながら、芽衣は最下段で挨拶を始めた応援団長に合わせて、観客席の方へアピールを開始した。前回はこの辺りで、背後からシャイニング子1号の応援用メガホンが「ついうっかり」蹴り飛ばされて肩に当たったが、今回は今のところ、嫌味も備品も飛んでこない。彩花たちの会話は聞こえなかったようだ。……やれやれ。
「勝利を信じて! 我々も頑張りましょう!」
 応援団長の締めの言葉に、学校関係者エリアのみならず、芽衣の右手にあたる一般の内野席からもわっと拍手が起こる。盛り上がりも気合いも充分だ。
 その後、応援団が客席にコールの説明などを行うのをフォローしているうちに時間は瞬く間に過ぎ、両校の選手が整列。互いに礼。サイレンが鳴る。
 試合開始——ここまで来たら、後は力の限り踊り、盛り上げ、念を送るのみ。
 前回より周囲の熱量が高いからか暑く感じられたが、そんなことにかまってはいられない。芽衣は表示されるボードの指示通り踊り、コールし、周囲を盛り上げた。
 基本的には学校関係者を盛り上げるよう言われてはいたものの、立ち位置が一般エリアの真横なので、一応そちらにも気を配って笑顔を向ける。強制しなくても、一般エリアの観客も一緒になって手をたたき、コールしてくれるのが嬉しかった。不思議なもので、一般エリアの一か所が一緒にコールや手拍子をしてくれるだけで、それがじわじわと拡散され、エリア全体がどんどん盛り上がっていってくれる。初めのうちは左側からしか聞こえなかった拍手や応援の声が次第に全方位から聞こえてくるようになったという事象が、より一層芽衣自身のテンションを上げてくれた。
 回は中盤に進み、貴重なチャンスを掴んだM高が代打を送る。
「そーれかっとばせー、す・ず・き!」
「涼真くーん! がんばってー!」
 応援団長が取る音頭とシャイニング子1号の黄色い歓声が、グラウンドの近くと背後から、サラウンドで同時に聞こえてきた。シャイニング子1号の叫びはチアリーダーとしては完全に失格だけれど、周囲のわずかな失笑を買うだけで済んだ様子。——この場面を見守る観客全員に、そんなことにかまっている余裕はない。
 吹奏楽部が代打のテーマを演奏し、『代打』『スズキ』とボードが掲げられた。トランペットに合わせ、まずは右手上のダイアゴナルの煽りから。頭上で2カウントクラップからの右パンチ。2カウントクラップ&右パンチ。そのまま頭上でポンを振り、応援団と一緒に「かっとばせー、す・ず・き」コール。本来ならこれを、打順が終わるまで繰り返すのが定型……だが、2回目の繰り返しの途中、キィンと高い金属音が響き、同時に3塁側全体が発した、ワアッという言葉にならない叫びでコールは中断された。
 両者0進行のまま動かなかった試合に、7回ウラ、代打の1年鈴木涼真の2ランホームラン。もちろん3塁側の観戦席はお祭り騒ぎだ。まだ試合が決まったわけでもないのに、全員が歓声を上げ、手をたたいて喜んでいる。
「涼真くーん! すごい! ヤッター! カッコイイー!」
 真後ろからダイレクトに聞こえてくる媚びをふんだんに含んだシャイニング子1号の声も完全にかき消されていた。涼真がゆっくりと2塁を回り、3塁側応援席の方へ近づく。こちらに向かって、小さく手を振る。唇が何かを伝えるように動く。
「あはは〜。『めいちゃん、ありがとう』だって〜! いやぁ、セーシュンだねぇ〜」
 次の瞬間、やけに通りの良いのんびりした声が、そう言うのが聞こえた。
 後ろの観客と喜びあう体で斜め右後ろを振り返ると、満員となった客席で、ニャムがスマホのカメラで涼真の姿を追いながらニコニコしている。ほぼ同時に、一番通路側にいたダンが「オイ!」とニャムを睨むものの、間に座っている社長がそれを遮る結果になり、ニャム自身にまで届かない。しかも。
「……何笑ってんだよ!」
 チアリーダーの笑顔のまま振り向いた芽衣に、視界の端の方からシャイニング子1号が手にしていたポンをかなぐり捨て、階段を駆け下り掴みかかってきた。芽衣としては単にカクテル効果で名前が呼ばれたのに気づき振り向いただけだが、シャイニング子1号はそうは取らなかったらしい。——ガチ恋相手の彼に勇気を振り絞って声をかけたけれど、彼はそれに応えてくれなかった。彼が感謝の声をかけたのは、自分が現在最も忌み嫌う女。しかも勝利宣言するかの如くそれを知らしめようと、その女はわざわざこちらを振り向き、あざ笑ってきた! ……彼女の脳内展開としては、こんなところだろうか。
 芽衣たち女子ダンス部が立って踊っているのは階段通路だ。古い球場なので幅は狭く、傾斜は急。もちろん手すりなど存在しない。前回はギリギリのところでダンが腕を捕まえてくれたおかげで転げ落ちずに済んだけれど、今回もそんなにうまくいくとは限らないな——などと例によって芽衣がぐるぐる考えているわずかな間に、芽衣の方に伸ばされた悪意ある細い腕は横から鳥のようにふわりと優雅な動きで飛び込んできた人物に掴まれ、動きを阻まれた。毎日の練習で鍛えている体幹で芽衣の方は何とか踏ん張ったものの、それでも少しよろけて、左手の方にいた学校関係者席に倒れこんでしまう。幸か不幸かそのエリアは応援に駆け付けたスポーツ専攻っぽい男子の集団だったので、ごくあっさりと「大丈夫?」という言葉と共に、数本の手によって芽衣はノータイムで縦に戻された。
「ヤダッ! 何なんですか!?」
「ちょっと! その子を離して! ……誰か呼んでください!!」
 シャイニング子1号と、いち早く騒ぎに気付いて駆け寄ってきたシャイニング子2号の叫びで、場は一時騒然となる。それでもシャイニング子1号の腕をつかんだダンは、その力を緩めない。緩めないどころか、おそらくはさらにその手のひらに力を込め、握った細い腕をねじり上げる。
「これ以上は我慢しない。アイツがやられた分だけ、俺がやり返す。……まだわかんないのかよ。アンタが敵う相手じゃねーんだよ。いい加減、逆恨み止めろ」
 至近距離からまっすぐ睨みつけられ、イケメンを鑑賞できる喜びより恐怖が遥かに勝ったらしい。中途半端に笑顔を作ろうとした表情のまま、シャイニング子1号がすうっと青ざめる。おそらく最後の力を振り絞り、シャイニング子1号はダンの腕を文字通り振りほどいた。そのままわあっと大声で泣きわめきながら、階段を駆け下り、球場出入り口ゲートへ消えていく。
「どうしましたか? 何かトラブルですか?」
「ちょっと、古橋サン! 試合中よ? 何があったの?」
 シャイニング子1号が姿を消すのと入れ違いに、騒ぎを聞きつけた警備員とグラウンド近くで踊っていたダンスリーダーがそれぞれ別方向から駆け寄ってきた。
 どうしたのかと聞かれても、ちょっと芽衣には説明しづらい。ありのままに言うのであれば——シャイニング子1号が以前から敵視していた芽衣に馬鹿にされたと勘違いして、ブチ切れて掴みかかってきた。が、そこに通りかかったダンに抑え込まれ敗北。脅されて、彼女は泣きながら逃げていった。……シャイニング子1号が悪い鬼なら、さながら、日本昔話だ。
「今走っていった子が、そこの、下の段にいた子とちょっと揉めてて。階段で危なかったので、弟が咄嗟に止めました。お騒がせしてすみません」
 全員が言葉を探して黙り込んだ一瞬の隙をついて、その時、ダンの後ろから社長が穏やかな営業スマイルを浮かべて話の輪の中に入ってきた。録画中のスマホを、それを持つニャムの手ごとぐいと引き寄せ、そこにいた人間に指し示す。
「試合を撮っていたので途中からになりますが、今走っていった彼女が、怒って、その下にいる彼女の方に降りて行ったあたりから録画できているはずです。ご確認いただければはっきりしますね」
「スマホお借りして、確認させていただいてもよろしいですか?」
「え〜。ヤダよ〜。タケシだって撮ってたよね〜? タケシがスマホ貸して見せてやりなよ〜」
「いいだろ、見せるくらい」
 ニャムは文句を言っていたが、社長に説き伏せられ、映像を確認するため事務室だか管理室だかに行くことになった。社長とニャムが警備員と共に席を立ち、同時に事情を聴きたいと言われ、芽衣とダン、彩花もそれに同行する。
「メイちゃん、おつかれ〜。ダンス、すごく良かったよ〜」
 ぞろぞろと応援席の階段を並んで降りながら、ニコニコの笑顔で、前の方にいるニャムが、真後ろの芽衣を振り仰いだ。
「特にあの、スズキくんだっけ〜? 彼の応援の時は良かったなぁ〜。ここから更に出力上がる感じだったのに、残念だよねぇ〜」
「えっと、ハイ……?」
「高校野球って、1回負けるともう、試合ないんでしょ〜? ホント、残念だなぁ〜。これでオシマイで、もう見れないなんてさ〜」
 M高の応援をする観客のど真ん中だとは思えないニャムの爆弾発言にぎょっとして、芽衣は思わず足を止める。急に止まった芽衣の動きに対応できず、その後ろから階段を降りてきていたダンが背中に軽くぶつかった。
「おい、ニャム。テキトーなこと言うなよ。てか早く行け」
 ダンに急かされ、ゆるりとニャムが向きを変える。つぶやく。
「元はと言えばさ〜。ダンのせいだよね〜。メイちゃんが針の筵なのってさ」
「……ハァ?」
 つぶやきにしては大きすぎる声に、ダンが反応した。階段の幅がもう少し広く、芽衣の横を彼が抜けていくことができたなら、第二の暴力沙汰勃発だっただろう。
「イキって『俺がメイちゃんを守る』的発言してもさぁ〜、そもそもの原因作ったのって、ダンなんでしょ〜? タケシから話聞いて、俺はそう思ったけどなぁ」
「どう言うことだよ」
「どうって〜……元々、ダンがメイちゃんのダンス動画をアップしたから、メイちゃんは部活を追い出されたんだよね〜? 追い出されたのに図々しく戻ってきてって思われてるんじゃないかなぁ〜? だから孤立してさぁ。可哀想に、ハブられてる感じ〜?」
 当事者の芽衣を目前に、ニャムは満面の笑顔のまま毒を吐く。おそらくニャムにとって目の前のチアダンサーは悪口の対象者でなく、単にダンがこちらに来ないようにガードをしてくれる衝立程度の認識なのかもしれない。しかし、ニャムに取っては衝立でも、芽衣はれっきとした人間だ。中立の立場の第三者から突きつけられた現実に、それがたとえ一切悪気のない発言だったとしても、相応のダメージを受ける。
 ——今まで、頑張ってきた。力の限り、踊って、盛り上げてきた。でも。
「メイちゃん!? ……大丈夫? 具合悪い?」
 異変に気づいた彩花が、ダンを押しのけて狭い階段を駆け下り、芽衣の肩を抱く。彩花に腕をさすられてようやく、芽衣は自分が、顔に貼り付けた『チアリーダーの笑顔』のまま、涙を流していたことに気づいた。
「えっと、大……丈夫。ちょっと暑い、くらい」
「熱中症かも。身体冷やして、少し休ませてもらお?」
 いつもの調子でてきぱきと場を仕切って、彩花は芽衣の肩を抱いたまま、他全員を置き去りにして早足で階段通路を降りる。切れ切れに聞こえてきた彩花と関係者の会話から、彼女が自分を連れて、医務室へ向かっていることがわかった。

 まずはシャイニング子1号、試合途中、場外へ一時退場。
 続いて芽衣、試合途中、場外へ退場。
 両者退場により、おそらくこの一件は宙ぶらりんになるか、なあなあのまま「女子同士の諍い」といった落とし所で処理されることだろう。
 シャイニング子1号には、いつでも寄り添っているシャイニング子2号がいる。部の同学年仲間もあと6人いる。可愛がってくれる先輩だっているかもしれない。一途な恋を応援してくれる、同じ部活ではない友人だって、きっといる。
 でも……芽衣にはそんな風に回りを固めてくれる仲間は、学内に一切いない。
 それはもしかしたら入学時から今までに芽衣が何かやらかしたからかもしれないし、逆に何もやらなかったからかもしれない。あるいはニャムが言ったとおり、ダンが動画をアップしたせいで部活を追い出されたことに起因するのかもしれない。
 よくわからないけれど、一つだけ言えるのは——彼女と芽衣を比べると、現在圧倒的に立場が弱いのは芽衣の方だ、ということ。

「メイちゃん、具合悪い? あとちょっとだから、頑張って」
 彩花の優しい心遣いが、更に涙を溢れさせる。
 何で彩花は、同じ高校に通っていないのだろう? 同じダンス部で、同じユニフォームで、一緒に踊っていないのだろう?
 きっとこの後、今まで中立の立場を保っていた者も含め、女子ダンス部1年生全員が「仲間であるシャイニング子1号を傷つけ、排除した者」と見なし、芽衣の敵になる。以前のトラブルに加え、試合途中で消えた芽衣に対し、先輩たちも黙っていないだろう。

 結果——ここから芽衣は学校で、完全に、一人だ。

 雲一つない空の下、太陽はギラギラと照りつけているのに、芽衣だけが雨の日の夕方に一人、ぽつんと立っているような気持ちだった。
 仲間もいない。応援する相手もいない。ひとりぼっち。
 これからどうしたら良いのか、全くわからない。
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