-第一章- 『女魔術師、道端でサムライを拾う』
「ちょっと待たんかいっ!!」
ウチは、テーブルを力いっぱい叩いた。ちぃとばかし痛かったけど、そんなこと気にはしとられん。何せ、この【聖盃探し】にはかなりの元手がかかっとるんやから。
「納得いかへんで! 何でウチをパーティーから外すんや!!」
パーティーリーダーの戦士が、めんど臭そうにため息をつく。横に座る盗賊が、ニヤニヤしながらウチに言うた。
「オレもリーダーの意見に賛成だ。ガルフネットは分け前をフンだくりすぎる」
さらに、ウチの横でホーリーシンボルを磨きながら、僧侶が続ける。
「それに、あなたの魔法は度を越しています。モンスターはおろか、味方まで吹き飛ばしてくれるおかげで、癒しのために神の手をわずらわせてばかりです」
「せやけど、みんな無事やんか! ウチが魔法を使うてやっとるから、【癒し】でおっつくケガで済んどるんやで!!」
「そして、いつかあんたに殺されるのさ」
盗賊の皮肉っ気タップリな言葉に、場がしら~っとした空気に包まれた。こいつ――宝箱ひとつ満足に開けられん、ハンパ者のクセしおってからに!!
「だいたい、ここまで調べてきたんはウチやねんで! それを今さら手ェ引けやなんて、ずうずうしいにも程がある!! この調査には、時間も金もタップリ使うてるんや! その労力に対する報酬はどないしてくれるねん!!」
「これまでの冒険で、充分に払った」
戦士が言う。へらへら笑いながら、盗賊が付け加えた。
「お宝の5割ってのは、取りすぎだよな。普通は4人で均等にわけるモンだ」
ウチは盗賊をキッとにらみつけた。
そうか! こいつが、分け前欲しさにリーダーをそそのかしたんやな!!
「とにかく、だ。もう、あんたの力は必要ない。オレたちは、もっと優秀で、もっと安く働いてくれる魔術師を雇うことにした」
「なんやてっ!? ウチより優秀な魔術師なんか、おるもんかい! ウチはこの道260年のプロ中のプロなんやで!!」
「――ふっ。あんた、22歳だって言ってなかったっけ?」
いきなり背後から声がして、ウチは不覚にもちょっと驚いてもうた。何モンかと振り向くと、そこには見慣れた姿があった。
「ダバラ――またおまえかいな!!」
絞り出すようにして、ウチは苦々しく言う。そこにおったんは、空色のローブにこれみよがしにマジック・ジュエルをじゃらじゃらくっつけて、ドでかい紅玉をはめ込んだ白銀の杖を持ち、他人を見下したような薄笑いを浮かべとるチャラい系の>兄ちゃんや。
人呼んで【歩くマジカルショップ】ことダバラ・デューンは、ウチの言葉にいつものダッサイ「ふっ」笑いを浮かべよった。ちなみに、本人はカッコイイつもりらしい。
ぬぎぎぃ、と歯をくいしばったウチやったけど、すぐに冷静さを取り戻す。それから、リーダーの戦士に向かって言うてやった。
「笑わせんといてや。こんなんが、ウチより優秀な魔術師やて? しょせんコイツは、金にモノ言わせて高価なギルド魔法を使うだけの、エセ魔術師やんか。こんなヤツをアテにしとると、大怪我するハメになるで!」
「それじゃあ、あんたはどうなんだい?」
ダバラが、登場後わずか30秒にして、はや3回目の「ふっ」笑いを浮かべて言った。「自称天才美人魔術師のガルフネット様は、アイテムに頼る魔法使いはお嫌いですか?」
んでもって、4回目の「ふっ」。
こ――このオトコは――! おととし、魔法市で買うたエセ・マジックボムをふざけてぶつけた時に、ついでにトドメをさしとくべきやったで。
ウチは激しい破壊衝動にかられつつも、何とか冷静さを保っとった。けど、ダバラのその【何でもお見通しのような笑い】にカンニン袋の尾もブツンとキレる。
「も――」
ウチの忍耐もこれまでや。まぁ、ウチにしたら、1分もようガマンした方やと思う。
「もうええわいっ! おのれらがそーゆーつもりなんやったら、ウチにかて考えがある!!」
ウチは怒りにまかせてテーブルをひっくり返すと、そのまま店を出た。出口で一度ふりかえり、とっておきの【火の玉地獄】の魔導書をひっぱり出す。頑丈な石造りの店や、中はマチガイなくピザ焼き窯よろしく灼熱地獄やな。ま、関係ない客には気の毒やけど、その場におったんが身の不運や、カンニンしてんか。
読み上げた呪文の効果発動を待たず、ウチは踵を返すと酒場を後にする。背後から、阿鼻叫喚の絶叫が響き渡り、ささくれだったウチの心を爽快に癒してくれた。
ウチはそのまま歩を早めると、宿屋で荷物を回収してから旅支度を急ぐ。急ぎの理由はと言えば、まぁその後の騒動を避けるためもあるけど、それだけやない。ここまでコケにされたからには、ウチもそのなりの仕返しをせんと、ハラの虫がおさまらん。とにかく、連中より先に【聖盃】を見つけ出して、ひと泡吹かせたるんや。もともと、聖盃についての調査はほとんどウチがやってたワケやし、あんなアホらに先を越される心配もないとは思うけど、思い立ったが吉日の全は急げ、タイム・イズ・マネーや。そんでもって、聖盃片手にあいつらに向かって「ざまあ見ろ」て、笑うてやるんや。連中の悔しがる姿が眼に浮かぶで。
――ん? 仕返しやったら、さっきので充分やろうって? アホやなぁ。仕返しっちゅうもんは、じっくりと計画を練ってヤルからこそ、成功した時が爽快なんや。感情的になったかて、しょせんは一時の気持ちの爆発にすぎへんやろ? ウチは、そんな刹那的な人生をおくるシュミは持ち合わせてへんのや。
ウチがそいつと出会うたんは、そんなコトがあってから、半日もたたんうちやった。ほんま、タダの偶然やったんや。
そいつは、みすぼらしいカッコで、道端に座りこんどった。でっかい体を丸めて、ひもじそうな顔をしとった。普段やったら、そんなヤツには近寄りもせんかったやろう。せやのに、そんなやつにウチが興味を持ったんには、もちろん先だっての出来事が大きく関係しとるんは言うまでもないな。うまいコトしたら、こいつ、使えるんちゃうかと思うたんや。
ウチがそばに立ち止まると、そいつは捨てられた小犬みたいな顔して、こっちを見上げる。うっは――そんな眼ぇすんなや。ウチの寛大な庇護欲が疼いてまうやんか。
気をとりなおして、呟払いひとつ。
「なんや、行き倒れかいな? なっさけない顔してからに。いっぱしの大人やったら、どんな時かて毅然としとらなアカンのとちゃうか?」
ウチの言葉に、そいつは照れクサそうに笑ろうた。それがまた、よりいっそうなさけのう見せる。ナイスなタイミングで、そいつの腹のムシが、これ以上ないぐらいに自己主張した。
「――すまんが、何か食べ物をゆずってはくれまいか――」
弱々しい声で言う。けど、さっきまでの弱々しかった眼は、いつの間にかギラギラした飢えた野獣のそれに似た凶悪さに変わっとる。断ろうモンなら、頭から齧りつきかねん雰囲気や。人間、ハラ減ると何するかわからんもんね。ウチは、持っとった保存用の食料をぽいっと投げ渡したった。
そいつは、ウチが投げ渡した食いモンと、ウチの顔とを交互に見てからぺこりと頭をさげる。瞳の狂暴さも、一瞬にして消えよった。何や、けっこう【ええ奴】やんか。
ややあってから、止まっていた時が突然動き出したみたいに食料の包みをばりばり破ると、あんぐりと大口を開けてかぶりつく。そらぁもう吸い込むようにして腹に収めた。んでもって、お約束みたいにノドつまらせたんで、水筒をわたしてやる。そいつは、胸ぇドンドンたたきながら水を飲むと、深々とひと息ついた。デカイ図体して、赤んぼみたいなやっちゃ。
「おかげでひと息つけた。それがしは速水三郎太。何か礼をしたいのだが――」
そう言うて、困り顔で頬をかく。そいつの言うことにゃあ、何でも、船で遠くからやって来たんやけど、港でイキナリだまされて、全財産を持ってドロンされたらしい。
それからは、何度か流れ者と組んで冒険したらしいけど、毎度決まっとるように、ダマされて分け前を持ち逃げされたんやそうや。そのあげくの、行き倒れっちゅうワケや。
けっこうおるねん、こういうドンくさいやつって。
せやけど、そん時のウチには、三郎太の気持ちがごっつよう解った。そして、ちょっとしたチャンスを手に入れた気になっとった。こいつ、やっぱ使そうやんけ、てな。
今にして思えば、ソン時からウチの受難の旅は始まっとったんかもしれん。
「ジブン【サムライ】か?」
近場の食堂に場を移したウチは、喜々として食いつづける三郎太にたずねた。ドロだらけの服は、上下ともに渋染めのモンで、腰のところを帯でしばったもんやったし、帯には武器屋で見る【サムライ・サーベル】を大小2本さしとる。いわゆる【二本差し】っちゅうやつやな。
サムライ・サーベルちゅうんは大小2本でワンセットって聞いたコトがある。つまりは、正式なサーベルセットを装備しているっちゅう事は、コイツは正式な武士――つまりは士官しとるサムライ――って事なんやろうとは思う。
そんでもって、もうひとつ気になるっちゅうか、むっちゃウチの目ぇを引き付けたんが、後生大事に抱えとるクッソでかい大太刀や。柄だけでもウチの肩幅以上ありそうやし、柄を含めた長さはウチの身長の倍くらいありそうや。
あれだけの大きさやと刀身も圧重ねで強度出してるやろうし、ホンマもんの鋼でできとるんやとしたら、その重さはバケモノ級やろ。それ程のエモノを使うやっちゃ、きっと役に立つにちがいあらへん。
ウチが「こいつ使える」て思た最大の理由はコレやね。せやなかったら、こんなコ汚いヤツとメシ屋になんか入ってたまるかいな。
「――コラ! 聞いてんのかいな?」
「――ん?」
頬づえついて、テーブルを指でトントンいわしとるウチを、メシいっぱい頬ばった三郎太がキョトンと見返した。どうやら、ここ1週間、野の草花食ろうて暮らしとったっちゅうのは、ホンマやったらしい。食うんが忙しゅうて、ウチの声なんかゼ~ンゼン耳に入ってへんかったんやね。
「ジブン、サムライなんかって聞いとんのや」
三郎太は、申し訳なさそうに首を振った。
「――なんや、【ローニン】かいな」
――二本差しやからてっきり正規のサムライやと思たんやけど、まぁそーゆーコトもあるやろ。それはそれで、仕官してへんっちゅう事はフリーランスっちゅーコトやから、取り回しはやりやすいかもな。
少しん考え込んだウチの姿を見て失望されたとでも思うたんやろか? 三郎太は少し元気を無くしたようやった。まあサムライなんて、そうザラにおるもんやないやろう。何せ、遥か遠く海を越えた伝説の戦士の国、そこでもよりすぐりの戦士だけがサムライと呼ばれるらしいしな。嘘かホンマか知らんが、サムライは戦士のクセに中級魔法を使い、剣技に至ってはマスタークラス。バーサーカーよりも激しく、ナイトよりも誇り高いと言われとるし、目の前の捨て犬みたいなやつとは雲泥の差や。
そもそも、考えてみたら、三郎太がサムライなんやったとしたら、行き倒れるような生き恥さらす前に【ハラキリ】で自害しとるはずや。それがサムライの信条たる【ブシドー】なんやとウチは記憶しとる。
「ほな、ジブン――強いか?」
ウチは質問を変えた。
「それなら自信がある」
三郎太は急に元気になると、チョップスティック(箸のことや)をくわえたまま、にかっと笑うて二の腕をポンと叩いた。
――ホッペにお弁当つけて、カッコつけるな、アホ。図体はでかぁても、オツムはガキなんやな、こいつは。
「――ま、ええわ。ほな、ちょっとばかし相談なんやけど、ジブン、ウチと組んでみいへんか?」
三郎太はボウルにだばだばワインをつぎながら、ぽかんとした顔でウチを見た。
「実を言うとな、ウチ今ちょっとした宝探しをしてんねん。ほんで、ウデのたつモンを探しとったんや。ジブンみたいな図体だけのモンでも、少しは頼りになるやろ。どや? ウチと組んでひと儲けしようやないか」
ウチの提案を、三郎太は二つ返事で引き受けた。あまりに素直な三郎太に、ウチは軽い頭痛を感じて、顔を伏せる。そんなウチを三郎太が不思議そうに覗き込んだ。
「――あ、アホかジブン」
三郎太には、何のことか解らんらしい。
「ええか、これからウチの相棒になるからこそ言うんやけど、ジブンは疑うっちゅう事を知らなさすぎる。ウチの知り合いにもそういうヤツがぎょうさんおるけど、そいつらは決まって、み~んな貧乏しとる。今の世の中、お人好しはアホみる御時世なんや」
三郎太は釈然とせえへん顔や。ウチはテーブルを指でトントンと叩いた。
「ええか、サブロータ? ジブン、今までこんな調子で、何度もダマされてきたんやろ? せやのに、ぜんっぜんコリてへんやんか。ウチがダマしてドロンしたら、どないするつもりやねん?」
「――そうなのか?」
三郎太がぼそりと聞いた。ウチは不覚にも「う゛っ」と言葉を詰まらせてしもうた。そ、そんな悲しそうな目でこっち見んなて!
「と――とにかく、や。ジブンはもっと世の中のことを勉強せなあかん。これから、ウチが色々と教えたるさかい、感謝しいや」
そこまで言うて、ウチは声を落とす。
「――そこで相談なんやけど、経費はウチ持ちでええとして、教育料込みで給料はお宝の2割でどないや?」
三郎太は「異存ない」と即答した。
――こいつは、かなりデキの悪い生徒になりそうや。
実際のところ、何でウチがそんな【先生】じみたことしようなんて気になったんかは、よう解らん。まあ、ウチのきまぐれやゆうたらそれまでなんやろうけど、三郎太には、なんやしらんけど、ほっとけへん不思議な魅力があったんや。それと、やっぱ五竜亭でイロイロと新人にウンチクたれとったおかげで、【教え癖】みたいなモンがついてしもうたんかもしれへんな。そんなこと考えながら宿の出口でまっとるウチに、こざっぱりしたカッコで出てきた三郎太が右手を上げた。
「ほぉ~」
ひとっ風呂浴びて汚れを落とした三郎太は、意外に男前やった。無精髭をキレイに剃った顔は若々しい青年のそれやし、四角うて頑丈そうなアゴとぶっとい眉は、意志の強さを感じさせる。ハラふくれたおかげで背筋もしゃんとのびて、そのブ厚い胸板がウチの顔のへんにあった。例の【ごっついエモノ】を肩の上に担いで、よっこらよっこらと歩いてくる間、頭の後ろに束ねた長い黒髪が一歩進むたんびに、馬のシッポみたいにぷらぷらと揺れとった。
「待たせたな、ガルフ」
屈託のない笑顔でウチを見下ろす。ウチは解りやすーく眉間にシワ寄せて、イラついた雰囲気をにじませながら言うた。
「コラ。なれなれしいやっちゃな」
ウチは三郎太の鼻っ先に指を突きつける。
「ええか、ウチのことをそんな風に呼んでええんは、いっぱしの冒険者だけや。それも、すこぶる一流のモンだけ。だいたい、ウチはジブンの雇用主であり、社会学の先生でもあるんやで。もっと尊敬して呼ばんかいな」
「――そ、そうか」
困った顔で頭をかく。デカイ図体に似合わんその子供っぽい仕草は、えらい滑稽なもんやった。ケドにもこんぐらいの初々しさがあったらよかってんのにな。そんなコトを考えとったウチに、身をかがめて覗き込んだ三郎太が言う。
「――では、どう呼べばいい?」
目の前に三郎太の顔があったんで、ウチはびっくりして「お、おう」とドモってしもうた。どうも、こいつのペースはウチとはかみ合わん。ウチは動揺を隠すようにして背中を向けると、ぶっきらぼうに言うたった。
「自分で考えたり。ほな、そろそろ出発するで。この荷物を持って、ウチについてきい」
「心得た。――師匠」
それが三郎太の考えた呼びかたらしい。発想が貧困やな。せやけど――。
師匠、か。え~響きや。
ウチは、テーブルを力いっぱい叩いた。ちぃとばかし痛かったけど、そんなこと気にはしとられん。何せ、この【聖盃探し】にはかなりの元手がかかっとるんやから。
「納得いかへんで! 何でウチをパーティーから外すんや!!」
パーティーリーダーの戦士が、めんど臭そうにため息をつく。横に座る盗賊が、ニヤニヤしながらウチに言うた。
「オレもリーダーの意見に賛成だ。ガルフネットは分け前をフンだくりすぎる」
さらに、ウチの横でホーリーシンボルを磨きながら、僧侶が続ける。
「それに、あなたの魔法は度を越しています。モンスターはおろか、味方まで吹き飛ばしてくれるおかげで、癒しのために神の手をわずらわせてばかりです」
「せやけど、みんな無事やんか! ウチが魔法を使うてやっとるから、【癒し】でおっつくケガで済んどるんやで!!」
「そして、いつかあんたに殺されるのさ」
盗賊の皮肉っ気タップリな言葉に、場がしら~っとした空気に包まれた。こいつ――宝箱ひとつ満足に開けられん、ハンパ者のクセしおってからに!!
「だいたい、ここまで調べてきたんはウチやねんで! それを今さら手ェ引けやなんて、ずうずうしいにも程がある!! この調査には、時間も金もタップリ使うてるんや! その労力に対する報酬はどないしてくれるねん!!」
「これまでの冒険で、充分に払った」
戦士が言う。へらへら笑いながら、盗賊が付け加えた。
「お宝の5割ってのは、取りすぎだよな。普通は4人で均等にわけるモンだ」
ウチは盗賊をキッとにらみつけた。
そうか! こいつが、分け前欲しさにリーダーをそそのかしたんやな!!
「とにかく、だ。もう、あんたの力は必要ない。オレたちは、もっと優秀で、もっと安く働いてくれる魔術師を雇うことにした」
「なんやてっ!? ウチより優秀な魔術師なんか、おるもんかい! ウチはこの道260年のプロ中のプロなんやで!!」
「――ふっ。あんた、22歳だって言ってなかったっけ?」
いきなり背後から声がして、ウチは不覚にもちょっと驚いてもうた。何モンかと振り向くと、そこには見慣れた姿があった。
「ダバラ――またおまえかいな!!」
絞り出すようにして、ウチは苦々しく言う。そこにおったんは、空色のローブにこれみよがしにマジック・ジュエルをじゃらじゃらくっつけて、ドでかい紅玉をはめ込んだ白銀の杖を持ち、他人を見下したような薄笑いを浮かべとるチャラい系の>兄ちゃんや。
人呼んで【歩くマジカルショップ】ことダバラ・デューンは、ウチの言葉にいつものダッサイ「ふっ」笑いを浮かべよった。ちなみに、本人はカッコイイつもりらしい。
ぬぎぎぃ、と歯をくいしばったウチやったけど、すぐに冷静さを取り戻す。それから、リーダーの戦士に向かって言うてやった。
「笑わせんといてや。こんなんが、ウチより優秀な魔術師やて? しょせんコイツは、金にモノ言わせて高価なギルド魔法を使うだけの、エセ魔術師やんか。こんなヤツをアテにしとると、大怪我するハメになるで!」
「それじゃあ、あんたはどうなんだい?」
ダバラが、登場後わずか30秒にして、はや3回目の「ふっ」笑いを浮かべて言った。「自称天才美人魔術師のガルフネット様は、アイテムに頼る魔法使いはお嫌いですか?」
んでもって、4回目の「ふっ」。
こ――このオトコは――! おととし、魔法市で買うたエセ・マジックボムをふざけてぶつけた時に、ついでにトドメをさしとくべきやったで。
ウチは激しい破壊衝動にかられつつも、何とか冷静さを保っとった。けど、ダバラのその【何でもお見通しのような笑い】にカンニン袋の尾もブツンとキレる。
「も――」
ウチの忍耐もこれまでや。まぁ、ウチにしたら、1分もようガマンした方やと思う。
「もうええわいっ! おのれらがそーゆーつもりなんやったら、ウチにかて考えがある!!」
ウチは怒りにまかせてテーブルをひっくり返すと、そのまま店を出た。出口で一度ふりかえり、とっておきの【火の玉地獄】の魔導書をひっぱり出す。頑丈な石造りの店や、中はマチガイなくピザ焼き窯よろしく灼熱地獄やな。ま、関係ない客には気の毒やけど、その場におったんが身の不運や、カンニンしてんか。
読み上げた呪文の効果発動を待たず、ウチは踵を返すと酒場を後にする。背後から、阿鼻叫喚の絶叫が響き渡り、ささくれだったウチの心を爽快に癒してくれた。
ウチはそのまま歩を早めると、宿屋で荷物を回収してから旅支度を急ぐ。急ぎの理由はと言えば、まぁその後の騒動を避けるためもあるけど、それだけやない。ここまでコケにされたからには、ウチもそのなりの仕返しをせんと、ハラの虫がおさまらん。とにかく、連中より先に【聖盃】を見つけ出して、ひと泡吹かせたるんや。もともと、聖盃についての調査はほとんどウチがやってたワケやし、あんなアホらに先を越される心配もないとは思うけど、思い立ったが吉日の全は急げ、タイム・イズ・マネーや。そんでもって、聖盃片手にあいつらに向かって「ざまあ見ろ」て、笑うてやるんや。連中の悔しがる姿が眼に浮かぶで。
――ん? 仕返しやったら、さっきので充分やろうって? アホやなぁ。仕返しっちゅうもんは、じっくりと計画を練ってヤルからこそ、成功した時が爽快なんや。感情的になったかて、しょせんは一時の気持ちの爆発にすぎへんやろ? ウチは、そんな刹那的な人生をおくるシュミは持ち合わせてへんのや。
ウチがそいつと出会うたんは、そんなコトがあってから、半日もたたんうちやった。ほんま、タダの偶然やったんや。
そいつは、みすぼらしいカッコで、道端に座りこんどった。でっかい体を丸めて、ひもじそうな顔をしとった。普段やったら、そんなヤツには近寄りもせんかったやろう。せやのに、そんなやつにウチが興味を持ったんには、もちろん先だっての出来事が大きく関係しとるんは言うまでもないな。うまいコトしたら、こいつ、使えるんちゃうかと思うたんや。
ウチがそばに立ち止まると、そいつは捨てられた小犬みたいな顔して、こっちを見上げる。うっは――そんな眼ぇすんなや。ウチの寛大な庇護欲が疼いてまうやんか。
気をとりなおして、呟払いひとつ。
「なんや、行き倒れかいな? なっさけない顔してからに。いっぱしの大人やったら、どんな時かて毅然としとらなアカンのとちゃうか?」
ウチの言葉に、そいつは照れクサそうに笑ろうた。それがまた、よりいっそうなさけのう見せる。ナイスなタイミングで、そいつの腹のムシが、これ以上ないぐらいに自己主張した。
「――すまんが、何か食べ物をゆずってはくれまいか――」
弱々しい声で言う。けど、さっきまでの弱々しかった眼は、いつの間にかギラギラした飢えた野獣のそれに似た凶悪さに変わっとる。断ろうモンなら、頭から齧りつきかねん雰囲気や。人間、ハラ減ると何するかわからんもんね。ウチは、持っとった保存用の食料をぽいっと投げ渡したった。
そいつは、ウチが投げ渡した食いモンと、ウチの顔とを交互に見てからぺこりと頭をさげる。瞳の狂暴さも、一瞬にして消えよった。何や、けっこう【ええ奴】やんか。
ややあってから、止まっていた時が突然動き出したみたいに食料の包みをばりばり破ると、あんぐりと大口を開けてかぶりつく。そらぁもう吸い込むようにして腹に収めた。んでもって、お約束みたいにノドつまらせたんで、水筒をわたしてやる。そいつは、胸ぇドンドンたたきながら水を飲むと、深々とひと息ついた。デカイ図体して、赤んぼみたいなやっちゃ。
「おかげでひと息つけた。それがしは速水三郎太。何か礼をしたいのだが――」
そう言うて、困り顔で頬をかく。そいつの言うことにゃあ、何でも、船で遠くからやって来たんやけど、港でイキナリだまされて、全財産を持ってドロンされたらしい。
それからは、何度か流れ者と組んで冒険したらしいけど、毎度決まっとるように、ダマされて分け前を持ち逃げされたんやそうや。そのあげくの、行き倒れっちゅうワケや。
けっこうおるねん、こういうドンくさいやつって。
せやけど、そん時のウチには、三郎太の気持ちがごっつよう解った。そして、ちょっとしたチャンスを手に入れた気になっとった。こいつ、やっぱ使そうやんけ、てな。
今にして思えば、ソン時からウチの受難の旅は始まっとったんかもしれん。
「ジブン【サムライ】か?」
近場の食堂に場を移したウチは、喜々として食いつづける三郎太にたずねた。ドロだらけの服は、上下ともに渋染めのモンで、腰のところを帯でしばったもんやったし、帯には武器屋で見る【サムライ・サーベル】を大小2本さしとる。いわゆる【二本差し】っちゅうやつやな。
サムライ・サーベルちゅうんは大小2本でワンセットって聞いたコトがある。つまりは、正式なサーベルセットを装備しているっちゅう事は、コイツは正式な武士――つまりは士官しとるサムライ――って事なんやろうとは思う。
そんでもって、もうひとつ気になるっちゅうか、むっちゃウチの目ぇを引き付けたんが、後生大事に抱えとるクッソでかい大太刀や。柄だけでもウチの肩幅以上ありそうやし、柄を含めた長さはウチの身長の倍くらいありそうや。
あれだけの大きさやと刀身も圧重ねで強度出してるやろうし、ホンマもんの鋼でできとるんやとしたら、その重さはバケモノ級やろ。それ程のエモノを使うやっちゃ、きっと役に立つにちがいあらへん。
ウチが「こいつ使える」て思た最大の理由はコレやね。せやなかったら、こんなコ汚いヤツとメシ屋になんか入ってたまるかいな。
「――コラ! 聞いてんのかいな?」
「――ん?」
頬づえついて、テーブルを指でトントンいわしとるウチを、メシいっぱい頬ばった三郎太がキョトンと見返した。どうやら、ここ1週間、野の草花食ろうて暮らしとったっちゅうのは、ホンマやったらしい。食うんが忙しゅうて、ウチの声なんかゼ~ンゼン耳に入ってへんかったんやね。
「ジブン、サムライなんかって聞いとんのや」
三郎太は、申し訳なさそうに首を振った。
「――なんや、【ローニン】かいな」
――二本差しやからてっきり正規のサムライやと思たんやけど、まぁそーゆーコトもあるやろ。それはそれで、仕官してへんっちゅう事はフリーランスっちゅーコトやから、取り回しはやりやすいかもな。
少しん考え込んだウチの姿を見て失望されたとでも思うたんやろか? 三郎太は少し元気を無くしたようやった。まあサムライなんて、そうザラにおるもんやないやろう。何せ、遥か遠く海を越えた伝説の戦士の国、そこでもよりすぐりの戦士だけがサムライと呼ばれるらしいしな。嘘かホンマか知らんが、サムライは戦士のクセに中級魔法を使い、剣技に至ってはマスタークラス。バーサーカーよりも激しく、ナイトよりも誇り高いと言われとるし、目の前の捨て犬みたいなやつとは雲泥の差や。
そもそも、考えてみたら、三郎太がサムライなんやったとしたら、行き倒れるような生き恥さらす前に【ハラキリ】で自害しとるはずや。それがサムライの信条たる【ブシドー】なんやとウチは記憶しとる。
「ほな、ジブン――強いか?」
ウチは質問を変えた。
「それなら自信がある」
三郎太は急に元気になると、チョップスティック(箸のことや)をくわえたまま、にかっと笑うて二の腕をポンと叩いた。
――ホッペにお弁当つけて、カッコつけるな、アホ。図体はでかぁても、オツムはガキなんやな、こいつは。
「――ま、ええわ。ほな、ちょっとばかし相談なんやけど、ジブン、ウチと組んでみいへんか?」
三郎太はボウルにだばだばワインをつぎながら、ぽかんとした顔でウチを見た。
「実を言うとな、ウチ今ちょっとした宝探しをしてんねん。ほんで、ウデのたつモンを探しとったんや。ジブンみたいな図体だけのモンでも、少しは頼りになるやろ。どや? ウチと組んでひと儲けしようやないか」
ウチの提案を、三郎太は二つ返事で引き受けた。あまりに素直な三郎太に、ウチは軽い頭痛を感じて、顔を伏せる。そんなウチを三郎太が不思議そうに覗き込んだ。
「――あ、アホかジブン」
三郎太には、何のことか解らんらしい。
「ええか、これからウチの相棒になるからこそ言うんやけど、ジブンは疑うっちゅう事を知らなさすぎる。ウチの知り合いにもそういうヤツがぎょうさんおるけど、そいつらは決まって、み~んな貧乏しとる。今の世の中、お人好しはアホみる御時世なんや」
三郎太は釈然とせえへん顔や。ウチはテーブルを指でトントンと叩いた。
「ええか、サブロータ? ジブン、今までこんな調子で、何度もダマされてきたんやろ? せやのに、ぜんっぜんコリてへんやんか。ウチがダマしてドロンしたら、どないするつもりやねん?」
「――そうなのか?」
三郎太がぼそりと聞いた。ウチは不覚にも「う゛っ」と言葉を詰まらせてしもうた。そ、そんな悲しそうな目でこっち見んなて!
「と――とにかく、や。ジブンはもっと世の中のことを勉強せなあかん。これから、ウチが色々と教えたるさかい、感謝しいや」
そこまで言うて、ウチは声を落とす。
「――そこで相談なんやけど、経費はウチ持ちでええとして、教育料込みで給料はお宝の2割でどないや?」
三郎太は「異存ない」と即答した。
――こいつは、かなりデキの悪い生徒になりそうや。
実際のところ、何でウチがそんな【先生】じみたことしようなんて気になったんかは、よう解らん。まあ、ウチのきまぐれやゆうたらそれまでなんやろうけど、三郎太には、なんやしらんけど、ほっとけへん不思議な魅力があったんや。それと、やっぱ五竜亭でイロイロと新人にウンチクたれとったおかげで、【教え癖】みたいなモンがついてしもうたんかもしれへんな。そんなこと考えながら宿の出口でまっとるウチに、こざっぱりしたカッコで出てきた三郎太が右手を上げた。
「ほぉ~」
ひとっ風呂浴びて汚れを落とした三郎太は、意外に男前やった。無精髭をキレイに剃った顔は若々しい青年のそれやし、四角うて頑丈そうなアゴとぶっとい眉は、意志の強さを感じさせる。ハラふくれたおかげで背筋もしゃんとのびて、そのブ厚い胸板がウチの顔のへんにあった。例の【ごっついエモノ】を肩の上に担いで、よっこらよっこらと歩いてくる間、頭の後ろに束ねた長い黒髪が一歩進むたんびに、馬のシッポみたいにぷらぷらと揺れとった。
「待たせたな、ガルフ」
屈託のない笑顔でウチを見下ろす。ウチは解りやすーく眉間にシワ寄せて、イラついた雰囲気をにじませながら言うた。
「コラ。なれなれしいやっちゃな」
ウチは三郎太の鼻っ先に指を突きつける。
「ええか、ウチのことをそんな風に呼んでええんは、いっぱしの冒険者だけや。それも、すこぶる一流のモンだけ。だいたい、ウチはジブンの雇用主であり、社会学の先生でもあるんやで。もっと尊敬して呼ばんかいな」
「――そ、そうか」
困った顔で頭をかく。デカイ図体に似合わんその子供っぽい仕草は、えらい滑稽なもんやった。ケドにもこんぐらいの初々しさがあったらよかってんのにな。そんなコトを考えとったウチに、身をかがめて覗き込んだ三郎太が言う。
「――では、どう呼べばいい?」
目の前に三郎太の顔があったんで、ウチはびっくりして「お、おう」とドモってしもうた。どうも、こいつのペースはウチとはかみ合わん。ウチは動揺を隠すようにして背中を向けると、ぶっきらぼうに言うたった。
「自分で考えたり。ほな、そろそろ出発するで。この荷物を持って、ウチについてきい」
「心得た。――師匠」
それが三郎太の考えた呼びかたらしい。発想が貧困やな。せやけど――。
師匠、か。え~響きや。
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