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光と闇のレジェンドiF -皚々たる冀望-[第1章]

第1話 冒険の幕開け
Adventure Begins

——この世界は『光の地帯ホワイト・フィールド』、『黄昏の地帯テンパランス・フィールド』、『闇の地帯ストレンジャー・フィールド』の3つに分かれている。
『光の地帯』には光の住人ポエムスが、『闇の地帯』には闇の住人プルトスが、そして、『黄昏の地帯』には黄昏の住人が、それぞれ住んでいた。
光の住人は『黄昏の地帯』には入れるが、『闇の地帯』には入れない。
闇の住人も『黄昏の地帯』には入れるが、『光の地帯』には入れない。
黄昏の住人のみが、いずれの地帯へも入ることが出来る
今より十五年の昔に端を発した『黄昏の地帯』と『光の地帯』での戦争は、それから三年を経て、『闇の地帯』をも巻き込んだ世界大戦を引き起こした。
それが、のちに言う『精霊大戦』である。
『精霊大戦』は、多くの命と、街と、歴史を灰に変えていったが、そこに現れた四人の伝説の戦士の活躍により、一年を満たさずして終結する。
三つの世界を平和へと導いた四人の戦士は、いずこともなく姿を消し、やがておとぎ話の中だけの存在となっていった——
とまぁ、以上がこの世界のざっくりした説明だね。
まぁ、フィリアにとっては『精霊大戦』以前の事については説明するまでもないってところだろうけどね。

フィリア

それはもう!
リプレイもルール編もボロボロになっちゃうくらい読みましたから!

本当に頼もしいね。
では、まずはフィリアの今の状況について説明しよう。
君はアンフィニーという国に所属する『暁の騎士団』の見習い騎士だ。
君が籍を置く『暁の騎士団』は、アンフィニー領のマニスター島の北にあるノーサスという海辺の町に拠点を置いている。
ノーサスの東側にはノーファス海峡が南北に流れ、対岸には、首都アンフィニーの海の玄関口である街、ネリルがある。

フィリア

なるほど。島の警備を務める騎士団という訳ですね。
それと、ノーファス海峡を守る重要な役割も受け持っている感じ、ですよね?

察しがいいな。その通り。
ノーファス海峡は海の玄関口であると同時に、アンフィニー国にとって海上貿易の生命線でもあるからね。『暁の騎士団』の砦は、港町であるネリルを対岸から警備する重要な役割を担っているという訳だ。

フィリア

そんな重要な役目を担う騎士団に所属しているなんて、とても誇らしいですっ!

『暁の騎士団』の拠点は、ノーファス海峡を見下ろす小高い丘の上にある。周囲の土を掘りだして濠をつくり、丘のてっぺんに掘り出した土や粘土を固めた土台を作って、そこに監視用の塔を建てている。
丘の脇と、その周辺にある騎士団の住居や貯蔵庫などの設備を木造の外壁でぐるりと囲んでいるタイプのものだ。外壁はだいたい直径100mくらいの円形に近いね。

フィリア

ふむふむ。典型的なモット・アンド・ベーリー型ってやつですね。

よくそんな事知ってるね。普通、そこまで知ってる人って少ないんじゃない?

フィリア

いや~、中世ヲタクなのもでぇ~。
でも、直径100m規模の物ともなると、木造のモット・アンド・ベーリー型にしてはちょっと大きい感じですか?

いやはや、恐れ入ったな。ここには、騎士団20名ほどが暮らす宿舎があって、彼らが使う食堂や、それだけの人数を養えるだけの貯蔵庫もある。規模が大きいと感じるのは、騎士団の面々が訓練に使う運動場が含まれているからだね。

フィリア

砦って言うより、何か学校みたいな感じなんですね。

そのあたりは、騎士団長のこだわりみたいなところもあるんだと思うよ。

フィリア

ふむふむ。人材育成に熱心な団長と予想!

おっと、誰かがこっちにやって来るぞ。
どうやら、君に用があるみたいだね。一直線にこっちに向かって来ているよ。

精悍な女性

よぉ、フィリア。
ちょっと顔貸してくんないかな?

フィリア

ふえっ!?
ななな、何ですか?

君に声をかけてきたのは騎士団の正騎士で、名前はブレンダ・エメラーダ。褐色の肌をした精悍な女性で、髪は情熱的なワインレッドのセミロング。透き通るブルーの瞳で顔立ちはキリっとしているけど、口元は少し微笑んでいるような優しい感じ。
なかなかの長身で、フィリアより頭ひとつ大きい。左手首で、白銀製か何かの金属の腕輪がきらきらと輝いているね。

フィリア

ほえ~。
なんかこう、カッコ良くて頼りがいのあるお姉さんって雰囲気がびしびし伝わって来ますねぇ。

ブレンダ

・・・なーにポカンとしてんだい? アタシの顔に何かついてる?

フィリア

うわー、姐さんキャラですね! かっこいい!!

ブレンダ

おいおい、何なんだよ?
もう1年の付き合いになるってのに、初めて会ったみたいな顔してるじゃないか?

フィリア

あ。ご、ごめんなさい。
何か今日、ちょっと舞い上がっちゃってて。えへへへ

ブレンダ

・・・? 変な子だねぇ

参考までに、ブレンダは君が見習いとして騎士団に入ってからの1年間、世話係を務めてくれていた先輩、という設定になっているらしいよ。

フィリア

そういう大切な事は、もっと早く教えてくださいよー。

ブレンダ

・・・ふふっ。フィリアの面倒を見るようになってから、もう1年になるんだねぇ。
はじめは剣の持ち方もおぼつかなかったアンタが、よく1年間見習いとして頑張ってこれたもんだと感心してるよ。

ブレンダ

まぁぶっちゃけ、その日のうちに逃げ出すと思ってたんだけどね。

フィリア

ありがとうございますっ!
これもひとえに、先輩のご指導のたまものですっ!!

ブレンダ

ほんっと、元気だけは一人前なんだよな。
はははっ。

フィリア

ところで先輩・・・

ブレンダ

・・・ブレンダでいいって、いっつも言ってんだろ?

フィリア

あ、はい。ブレンダさん。
ところで、私に何か御用があったんじゃないんですか?

ブレンダ

いっけね。忘れてた。
団長がお呼びだよ。

フィリア

団長が、ですか?
ひょっとして私、クビになっちゃったりとか?

ブレンダ

あのバカならともかく、アタシも呼ばれてるんだ。それは無いだろ? それに、騎士団はいつだって人手不足なんだ。逃げ出しゃしない限りは、徹底的にコキ使ってやるのが『暁の騎士団』流だからね。

ブレンダはそう言って笑うと、すいすいと歩いていくよ。背筋をぴんと伸ばした、実に優雅で凛々しい歩きっぷりを見るに、彼女はかなり優秀な騎士だと解るね。

フィリア

ふぇ~。そんな人から1年間指導を受けてたのかぁ。
・・・って、見とれてる場合じゃないですね。
ところで・・・あのバカって、誰の事だろ?

さぁ、それはこれからわかるんじゃなかいな。
それよりいいの? ブレンダが行っちゃうよ?

フィリア

あ、はい! 急いでフレンダさんの後を追いますっ!!

ブレンダの後を追って宿舎のわきを抜けると、少し歩いたところで何やら硬い金属が激しく打ち合わされる音が聞こえて来る。ブレンダは、その音のする方へと向かっているようだ。
進行方向、ちょっと先の所に15m×15mくらいの広場があって、広場の一辺にはロープを撒いた柱が数本立っている。ロープには何かを打ち付けられたような傷がついていて、所々補修されているようだ。どうやらここは、剣術訓練用のスペースらしいね。

ブレンダ

居た居た。やっぱりここか。

ブレンダの視線の先には、二人の騎士が激しく剣を打ち合わせる姿がある。一方はかなりガタイの良い、まるで野生の獣みたいな雰囲気の男性だ。硬そうな髪質の黒髪を短めのウルフカットにして、前髪を持ち上げてオールバック風に。太くてキリッと吊り上がった眉は、熱血漫画の主人公みたいだ。
瞳は濃いブラウン。羽織った上着の前は開いたままで、そこから鍛え上げられたムキムキの筋肉が見えている。彼の左手首にも、ブレンダと同じ腕輪が光っている。

フィリア

ブレダさんと同じ腕輪かぁ・・・おそろい、ってことはないだろうから、正騎士の身分証的な装身具か何かなんでしょうかね? もう一人の男性はどんな感じの人です?

もう一方は、ウルフカットの男性と比べると、線の細い感じの育ちの良さそうな青年だ。
きっちり刈り整えたブロンドで、前髪は長めにして顔にかかっている感じ。細くてシュッとした眉の下は切れ長の目で、瞳の色は紫かがった濃いブルー。先に行くにつれて細く引き絞った顎のラインは、きゅっと結ばれた口元もあってかなり生真面目な印象を受ける。
線が細いとは言ったけど、鍛えあげられたシャープな筋肉の持ち主のようで、キレのある俊敏な動きを見せているし、剣術もなかなかのもののようだ。

フィリア

おーっ、熱血系ゴリマッチョとクール系細マッチョ・・・って感じですね?

二人は君たちが来た事にも気付かず、一心不乱に打ち合っている。普通は木製の剣を使うんだけど、この二人は金属製の模擬剣を使っているね。実戦稽古ってやつだろうけど、練習用に刃を落とした剣とはいえ、当たれば骨なんて軽々と砕けそうな勢いに見えるよ。

フィリア

あわわわ。
ブレンダさん、放っておいて大丈夫なんですか?

ブレンダ

ここに来てから1年になるってのに、相変わらずフィリアは心配性だねぇ。
まぁ見てなって。

ガタイの良い男性は見た目通りの荒々しい剣で、線の細い青年は精密な研ぎ澄まされた剣、という雰囲気があるね。
青年の剣先がふっと下がった瞬間に、男性の重たい一撃が振り下ろされたんだけど、青年はその勢いを下からすくい上げるようにして受け流すと、途切れの無いなめらかな動きで剣を高く掲げ、そこから一気に男性の頭上に振り下ろす。
流された男性の剣は地面に深々と突き刺さってしまっていて、引き抜く一瞬の遅れで防御が間に合わない。

フィリア

えっ!? ちょっ!! ストップ! ストーップ!!

激しい金属音が鳴り響き、青年の剣が止まった。見ると、男性が左手で青年の剣を受け止めている。手にはプロテクターを装備していたみたいだけど、それでもすごい衝撃だっただろうね。あれを受け止めるなんて、並大抵の『剛腕』ではないと思うよ。

ブレンダ

へぇ・・・あのバカに『剛腕』を使わせるなんて、ずいぶんウデを上げたじゃないか。

その声に、ようやく君たちの存在に気づいたらしく、男性の方がこっちを向いてニカっと笑う。ちなみに、男性の剣は地面に突き刺さったままだ。

ガタイの良い男性

いよぉ! ギャラリーが居たんなら、もっとド派手に暴れときゃよかったぜ!
そうすりゃ、俺の凄さもばっちりアピールできてたよな!!

なぁんて言って、大笑いしている。

フィリア

豪快系ゴリマッチョですねー。
良き良き。

線の細い青年

おはようございます。
ブレンダさん、マルチェス先輩。

青年の方も、剣を収めると、こちらに向き直って静かに頭を下げるよ。

フィリア

んお?
青年の方は、私の後輩なんですか?

ああ。線の細い青年の名前はハリー・ビガット。君が入隊した半年後に見習い騎士として入団したんだ。

フィリア

ちょっと待って、情報量が多い多い!
メモとんなきゃ・・・

ははは。フィリアは本当に真面目だね。じゃあ、続けていいかい?

フィリア

はい。お願いします。

ガタイの良い男性の方はアレン・ヴィッター。この騎士団の正騎士だ。ちなみに、ブレンダとアレンは『暁の騎士団』の中でも屈指の実力者なんだ。同期で入団した腐れ縁だと言い合ってはいるが、互いに気心の知れた戦友同士だ。

ブレンダ

アレン、今のはけっこうヤバかったんじゃない?

アレン

あー、ちょっと冷や汗かいちまったな。こいつぁマジで天才だぜ。
青っちょろいひょろひょろのお坊ちゃんだと思ってたが、たった半年でここまで強くなりやがった。もう剣術じゃあ俺も敵わねぇ。

ハリー

いえ。僕なんてまだまだです。

ハリーは表情一つ変えずにそう言い放つ。時折り、フィリアの方をちらちら見ている気がするんだけど、そんな様子に気付いたブレンダが「ふふん」と鼻で笑っている。

フィリア

入団して半年で、正騎士より強いとかすごくないですか?

確かにね。キャラクターシートを確認すると、ハリーの『剣術』は[4]、アレンは[3]だ。
フィリアはいくつなのかな?

フィリア

えへへへ・・・[1]ですぅ。

[1]でも、一般人よりは強いよ。1年とはいえ騎士としての訓練を重ねたフィリアなら、町のチンピラくらいなら簡単にやっつけられるはずだ。

フィリア

じゃあ、ハリーくんってめっちゃ強いのでは?
ってか、ブレンダさんって『剣術』いくつなんですか?

ブレンダの『剣術』は[6]だね。

フィリア

すっご!!
ブレンダさん、尊敬しちゃいます! 憧れちゃいます!!

ブレンダ

な、何だいイキナリ?

フィリア

でも、そんなすごい人に1年も鍛えてもらって剣術[1]ぃ・・・。

ブレンダ

・・・ホント、何なんだい?
アガったりサガったり、忙しい子だねぇ。

アレン

ところでハリー。
お前ェ、あそこで剣先をちょっと下げて俺を誘ったろ?

アレンは地面から剣を引っこ抜くと、鞘に納めてから苦々しく口を開くよ。

ハリー

アレン師匠の打ち込みは重すぎて剣がもたないと思えましたので、流して撃ち返すのが正解と考えました。

アレン

かーっ、まんまとやられたって訳か?

ハリー

防具をつけているとはいえ、まさかあの一撃を手で止められるとは思いませんでしたが・・・。

アレン

流石に実戦ではやんねぇよ。掌どころか腕ごと持っていかれちまうしな!
よーし、そんじゃ次は、コイツで勝負しようぜ!!

なんて言いつつ、ぐっと握った拳をハリーに突き出すアレン。

ハリー

冗談は止してください。
格闘で僕がアレン師匠の相手になる訳ないじゃないですか。

フィリア

そうなんだ・・・ちょっとアレンさんのキャラクターシート、見せてもらってもいいですか? えーっと・・・
アレンさんの『格闘』は[5]、『剛腕』は[6]ぅ!?

ハリーの『格闘』は[2]で『剛腕』が[3]だから、確かに相手としては厳しすぎるかな。
ところでフィリアはどんな感じなんだい?

フィリア

えーっと・・・あははは。
聞かないでくださーい。

ハリー

ところで・・・。

フィリア

ん?

ハリー

・・・マルチェス先輩はどうしてここへ?

フィリア

ブレンダさんに声をかけられて、一緒に来たんです。

フィリア

それとね、ハリーくん。
マルチェス先輩とか堅苦しいですし、フィリアでいいですよ・・・って、あれ?
ハリーくん、よく見たら15歳じゃないですか! 私の方が、年下ですよ?

ブレンダ

よく見たら・・・って、どういうツッコミだいそりゃ?

ハリー

・・・年齢は上でも、僕の方が騎士団に入ったのは後ですから。
マルチェス先輩は先輩です。

フィリア

真面目だなぁ。
でもね、もっかい言うけど、マルチェス先輩じゃなくて、フィリアでいいですから。

ハリー

承知しました。
フィリア先輩。

フィリア

硬い、やっぱ硬いですよぉ。

ハリー

そういうフィリア先輩こそ、僕に敬語で話すのはやめてください。
それでは、後輩相手に示しがつかないですよ。

フィリア

うへぇ・・・ハリーくん、なかなか手ごわそうですねぇ・・・。

ブレンダ

はいはい。おしゃべりはそれまで。
団長がお呼びなんだ。あんまり待たせると、お得意のゲンコツ喰らっちまうよ?

アレン

んだよ、そーいう事は早く言えって!
団長がお呼びって事は、新しい任務の話だろ?
ここ最近ヒマで退屈してたとこだし、丁度いいぜ!

フィリア

退屈って・・・ついさっき、あんなに激しい模擬戦やってたのに?

ハリー

師匠はああいう人ですから・・・。

ブレンダ

ほんっと、筋肉バカは暑苦しくってしょうがないね。

アレン

おめーら、何ぼーっとしてやがんだ! 置いてくぞ!!

言うやいなや、みんなの返事を待たずにアレンは先に行ってしまう。

ブレンダ

・・・やれやれ。
呼びに来てくれた人を置いて先に行くかね、普通さ?

ハリー

し、師匠は・・・ああいう人ですから。

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