光と闇のレジェンドiF -皚々たる冀望-[第1章]

第2話 初めての任務 First Mission

ブレンダに続いて兵舎に入り、早い足取りで1階の廊下を進む。突き当りにドアがあって、ドアの上には『団長室』というプレートがかかっているね。

ブレンダ

やっべ、ちょっと時間かかりすぎたかな?
ブレンダ・エメラーダ、フィリア・マルチェスおよびハリー・ビガット両名を連れて参りました!

アレン

おう! まどろっこしい事やってないで、さっさと入ってこいや!

扉の奥から響いて来るのはアレンの声だ。

ブレンダ

何でアンタが仕切ってんだよッ!

言って、ドアを開くブレンダ。
ドアの奥は団長室と言う割にはこじんまりした部屋だね。真正面にあるデスクには、椅子に浅く腰掛け、両肘をついて手を組んだ上に顎を乗せたままこちらを見据えている人物がいる。そのわきにアレンが立ち、こちらに向かってひらひらと手招きしている。

アレン

な、団長。どうせすぐ来るんだから、ドアはあけといて大丈夫だって言ったろ?

団長

お前のは効率とかじゃなく、ただ粗暴なだけだろうが。
開けたドアは閉める。そんなもんは社会の常識だ。

アレン

またまたぁ、団長は社会の常識とか言っていいツラじゃねーから。

団長

お前も言えた程の面構えじゃないと思うがな?

団長はそう言ってから、むっくりと上体を起こした。肘はデスクについたまま、手も組んだまま、依然としてこちらを鋭い眼光で見据えている。
その顔には向かって右上から左下まで斜めに大きな刃傷があり、右目は眼帯で覆われている。右手には黒い手袋をはめていて、よく見ると右腕は肩より先がそっくり義手のようだ。
組んだ両手を開く折に何かが軋る音が聞こえたが、それが椅子の軋みだったのか、義手の軋みだったのかは分からない。

フィリア

うわぁ。まさに歴戦の勇士って感じですね。

そうだね。彼はロイ・レフムンド。先の『精霊大戦』を戦い抜いた戦士で、数多くの武功を得ている。大戦も終息期に向かっていた頃、大きな戦闘で右目、右腕、右足を失って前線を退いたものの、その功績を買われて『暁の騎士団』団長となった豪傑だ。

フィリア

じゃあ、さっきの音は、義足が軋んだ音だったのかな?
右半身ガッツリいっちゃってる感じですよね。そんな物凄い戦闘の生き残りが、『暁の騎士団』の団長さんなのかぁ・・・。

ロイ

どうしたフィリア? 何をブツブツ言ってるんだ?

フィリア

あひゃっ!? ふ、ふぁいっ!!

アレン

ほーらな。団長の顔ってやっぱコエーんだよ。
フィリアがびびっちまってんじゃん。

ロイ

そこまで言われると、少し落ち込んじまうな。
これでも昔はイケメンで通ってた頃もあるんだぞ?

ブレンダ

この子、今朝から変なんですよ。カンの良さそうな子だから、今日の話を察して緊張してるのかもしれないですね。

アレン

繊細だねぇ。

ブレンダ

アンタからは一番縁遠い言葉だよな。

アレン

オメーはホント、一言多いよなッ!

ロイ

そろそろ本題に入っていいか?

アレン

は、はいっ!!

ブレンダ

お話を続けてくださいっ!!

アレンとブレンダの夫婦漫才めおとまんざいに割って入るように、ロイ隊長が義手の指でデスクを軽く数回たたく。その乾いた音に、アレンもブレンダも縮み上がる。

フィリア

すごーい。息ピッタリ。
私たちも、ああいう息の合ったコンビに成れるといいね、ハリーくん。

ハリー

そ・・・そうですね。

ロイ

本題に入ってい・い・か?

フィリア

は、はひっ!!

ハリー

・・・・・・。

ロイ

この砦から南南西の位置にランズという町があるんだが、最近そこにガラの悪い連中が集結しているらしい。

ロイ

連中が何の目的でランズの町に集まっているのかを調査し、解決可能であればならず者たちを町から追い払ってもらいたい。

アレン

数は?

ロイ

解っている範囲で、ざっと20。
さらに増えているかもしれんな。

フィリア

け、けっこう居ますね。

ブレンダ

20、ね。
ま、アタシとアレンが揃ってりゃ楽勝な数だろ。

アレン

俺ひとりだって楽勝だぜ?

ブレンダ

あーはいはい。
けど団長、目的はそれだけじゃないんですよね?

ロイ

まあな。
フィリア、お前もここに来てもう1年だ。
そろそろ実戦を経験しておくのも悪くはないだろう。

フィリア

じ、実戦・・・ですか?

ロイ

それにハリー。
お前はこの半年でずいぶんと腕を上げたそうじゃないか?

ハリー

いえ。
自分なんて、まだまだです。

ロイ

謙遜はしなくていい。普段自分の事しか話さないアレンが、お前の事となると酒でも入ってるみたいによくしゃべる。あいつは強くなった、とな。

ブレンダ

へぇ〜? そうなんだ〜?

アレン

な、何だよ? 俺が弟子を褒めちゃ悪いかよ?

ハリー

・・・恐縮です。

ロイ

つまり、だ。騎士団の未来を担う若者に、見習いからの卒業試験を受けさせようって訳だな。我が団きっての猛者が二人ついていれば、大きな事故も起きないだろう?

アレン

モチのロンだぜ団長! まぁガキの御守りってのはちぃと退屈だが、たまにはこういう任務も悪かねぇやな!!

ブレンダ

・・・そんな嬉しそうな顔して何言ってんだか。

アレン

だからオメーは一言多いっつーんだよっ!!

ロイ

このマニスター島は本土と違ってまだまだ未開の地が多い。数が減ったとはいえモンスターも居る。相手をするのが人間だけとは限らんぞ?

アレン

任せとけって! この二人は俺が命に代えても守ってみせっからよ!! そんでもって何があったって、バッチリ試験に合格させてやんぜ!!

ロイ

その意気込みで小隊長はアレン、お前が務めろ。

アレン

おうよ!

ロイ

ブレンダはその補佐だ。

ブレンダ

承知しました。

ロイ

困難では無いが容易くもない任務だ。何か問題が発生したら、絶対に無茶はせずに引き返せ。フィリア、ハリー、わかったな?

フィリア

はい! わかりました!!

ハリー

了解しました。

ロイ

居住棟パラスの傍に荷馬車を用意してある。装備品および支給品は目録にある通りだ。すぐに準備を整えて出発しろ。

ロイ

それとアレン、さっき話したこと、忘れるなよ?

アレン

了解っす!

ブレンダ

・・・・・・。

とまぁ、そんないきさつで、いよいよ初任務だ。
まず一同は指定の居住棟まで移動する。そこで、支給品の確認をしておこう。
今回の任務では、アレンとブレンダに騎馬1頭ずつ。
メンバーそれぞれに食料6食分と薬草2回分、毒消草1回分と水筒が支給される。
それら個人装備に加えて野営セットとロープ、夜間照明用のランプなどと、それを運ぶための小型の幌馬車に、幌馬車を引く重馬1頭。あと、遠征費として100ホープだ。

ハリー

100ホープって、どのらいの価値なんです?

そうだなぁ。一般的な着火用のオイルライターが1Hだからね。
夜間照明用のオイルランプなら5ホープくらいだよ。

フィリア

だいたい1ホープが2,000円から3,000円くらいのイメージになるのかなぁ?

ハリー

だとすると、遠征費100ホープはなかなかの金額という感じですね。

フィリア

円にすると、20万円から30万円くらい?

アレン

ん? 遠征費がどうかしたのか?

ブレンダ

どっかの馬鹿が使い込まないか心配してるんだよ。

アレン

そのどっかの馬鹿ってのは誰の事だ? ああ?

ブレンダ

さーて。誰のことなんだかね。

フィリア

あははは・・・。
そんな険悪な雰囲気にならないで下さいよー。

ハリー

このやりとりに慣れておかないと、今後フィリア先輩の精神がもたなくなりますよ?

ブレンダ

まぁ、今回の任務では小隊長殿とアタシは付き添いみたいなもんだからね。
この100ホープはフィリアが持っときな。
まさかと思うけど、失くしたり、使い込んだりするんじゃないよ?

アレン

フィリアに限ってそりゃねーだろうよ。
大切な遠征費だ。しっかり管理しとけよ?

フィリア

了解です!! 責任を持ってお預かりさせて頂きます!

ハリー

では、僕は馬車に荷物を積み込んでおきます。
フィリア先輩。馬車の手綱は僕が取らせてもらっていいですね?

フィリア

えっと・・・あー、うん。えへへへ。
私『操術』持ってないし、『操術』[4]のハリーくんにお願いするね。

ハリー

任せてください。

ブレンダ

よしよし。準備の方は、この二人に任せておけばよさそうだ。
それにしても、ウチの見習い騎士さんたちは初々しいねぇ。

ブレンダ

ところで小隊長さん?

アレン

そーいうのいいから、いつも通り行こうぜ?

ブレンダ

だね。
でさ、アレン。今回の任務、どう思う?

アレン

どう? ってお前、普通の任務なんじゃねーの。
まぁ確かに、馬車に野営セットとか、ちぃと物々しい気はするけどな。

アレン

目的地までの距離が微妙なんで、ついでに色々試しておきたいんじゃねーの?
あの団長のこったから、そのへんの抜かりはねーだろ?

ブレンダ

……確かに、あの団長の考えそうなことではあるけどさ。

フィリア

え? なになに? どういう事?

ああ、アレンとブレンダはね・・・

ハリー

小隊長たちは、目的地までの距離と装備に関しての話をしていたんですよ。
馬の速度なら目的地のランズまで常歩で半日くらい。早駆けを数回繰り返せばその半分くらいの時間で着ける距離なんです。

ハリー

今、昼前ですから普通なら到着が夜中になるでしょうけど、ランズまでの道は途中までは馬足が鈍るほどの悪路でもないですから、早駆けなら暗くなる前には着けます。

フィリア

あー、なるほど。それをわざわざ馬車と重馬を加えて足を遅くしちゃったら、どうしても目的地に着く前に夜になっちゃうよ、って事だね?

ハリー

そうです。

・・・なかなかするどいね、ハリー。 確かに、きみの言う通りだ。

アレン

まぁ、野営の練習も一緒にして来いって事なんじゃねーか? サバイバル訓練程じゃないにしても、多少の経験にはなんだろ?

フィリア

なるほどー。この機会に色々テストしちゃおうって感じなんですね。
これは気合いを入れなくちゃ!

ブレンダ

あんまり肩に力を入れすぎるんじゃないよ?
無理に気張らなくても、普段通りの実力を示せばいいんだ。

フィリア

はいっ!

ブレンダ

ハリーも気負い過ぎないように。
いいトコ見せるチャンスなんていくらでもあるからさ?

ハリー

了解しました。

フィリア

へぇ。ハリーくんでもやっぱり気負ってたりするんだ?
お互い、いつも通りで頑張ろうね!

ハリー

・・・はい。もちろんです。

つづく
メッセージを送る!