光と闇のレジェンドiF -皚々たる冀望-[第1章]

第3話 夜襲 Night Attack

君たちが馬車の準備をしている間に昼時ひるどきを少し回ってしまったが、特に問題も無く出発する。すでに背後に見えていた騎士団の砦も、遠く離れて今はもう見えない。
隊列は、馬車の左前方でアレンが先頭。馬車の右横にブレンダの騎馬が伴い、馬車の手綱は御者席に座るハリーが持っている。フィリアは荷台で、ハリーの後方にちょこんと座ってる感じだね。

フィリア

ランズの町までの行程って、どんな感じなんです?
実は私『地法』持ってないんで、地理関係さっぱりだと思うんですよね。

フィリア

ハリーくんはどう?

ハリー

僕も、先輩と同じです。
まだ、あまり詳しくはないです。

フィリア

あー、ほんとだ。
ハリーくんも『地法』持っていなんだぁ。

ハリー

ここは経験豊かな先輩方におたずねするのが良いのでは?

フィリア

えーっと、プレンダさんは・・・っと。
ありゃ? ブレンダさんも『地法』を持ってない?

フィリア

えっ? 大丈夫なのこれ?
いきなり迷子になったりしない?

ハリー

先導している師匠が『地法』[2]を持ってますから、さすがに迷子にはならないと思いますよ?

フィリア

あははは。
だよねー。

ハリー

そんなに気になるようでしたら、野営セットか支給品の中に、地図があるんじゃないですか?

ああ。すこし縮尺は大雑把だけど、マニスター島全域の地図があるよ。

フィリア

そかそか。

フィリア

うーん。
それにしても、なんかこうハリーくんの背中と話してるみたいで、落ち着かないなぁ。ハリーくんも、目を合わせてくれないし。

ハリー

御者ですから。

フィリア

そんじゃ、私がハリーくんの横に座ればいっか。
んしょ、んしょ。

ブレンダ

おいおいフィリア。何やってんだい?
馬速の遅い荷馬車だからって、走行中に移動すると危ないよ!

フィリア

あっ。すみません。
ちょっとハリーくんと、ランズのまでの行程を確認したくて。
地図を持って横に座ろうかと・・・。

ブレンダ

・・・ったく。
仲がいいのは結構だけどさ、フィリアが荷台に乗ってる意味を考えなきゃダメだろ?

フィリア

えっ? 私が荷台に乗ってる意味、ですか?
えーっと・・・荷崩れとか、荷物の落下を見守る為、でしょうか?

ハリー

後方警戒の為ですよ。
誰かが追跡してきていないかを監視するのが、先輩の役目なんです。

フィリア

あーっ! そっかぁ!!
えへへへ。うっかりしてましたぁ。

ブレンダ

まだ街道沿いだから、そんなに神経とがらせる事もないんだけどさ、あんまり浮かれてると、アレン隊長にドヤされちゃうよ。

フィリア

はぁい。
ごめんなさい。

ハリー

すみません。
ブレンダ先輩に指摘される前に、僕がお話しするべきでした。

フィリア

いいのいいの。
私、まだこの世界じゃ新入りだし、いろいろ覚えていかなくちゃだから。

まぁ『地法』を持っていなくても、一応は地元だからね。多少の知識はあるよ。フィリアでも普通に知っていそうな情報くらいなら、簡単に説明しておこう。
マニスター島は、東西に150kmほどある三角おにぎり形の島で、ノーザスの港町は北北東の入り組んだ海岸線の奥地に有る。そこから東南に有る小高い丘の上に『暁の騎士団』の砦がある事は説明したよね?
ノーザスの港町からは、南南西に向かってスマニア街道という道が伸びていて、その街道を本道にいくつもの支道が伸びて、その先では島の随所が開拓されている感じだ。
開拓は12年前の『精霊大戦』以降から行われていたけれど、戦後しばらくは復興に忙しくて中断していた時期もある。ここ数年で人々の暮らしも落ち着いて来た事もあり、各地で小規模ながら開拓が再開された訳だ。
今回の目的地であるランズの町は、その街道の先に有る宿場町だね。多くの開拓民がランズの町に集まり、そこから各開拓地に向かって行くんだ。

フィリア

へぇ〜。
フロンティア・スピリッツの出発点みたいな感じの町なんですね。
なかなか活気がありそう。

ハリー

そんな街なら、多少いかつい人物も普通に集まって来そうに思えますけどね。

フィリア

まぁ、あのおっかない団長さんが「ガラが悪い」って言うからには、開拓者にはとても見えないような、よっぽど凶悪な人相なんじゃないかな?

ハリー

悪党やチンピラ程度なら、日々肉体労働で鍛えている開拓民が力を合わせれば、簡単に撃退できそうな気もするんですが・・・。

アレン

何だハリー?
この任務に不満でもあんのか?

ハリーの心配げな言葉に反応してか、アレンが声を掛けてくるよ。どうやら、先導しながらハリーとフィリアの会話に聞き耳を立てていたっぽいね。

フィリア

ひゃー。
ブレンダさんといい、アレン隊長といい、むっちゃ私たちの事気にしてません?
いかにも試験官って感じで、緊張しちゃいます。

ブレンダ

ふふっ・・・。緊張ねぇ。
砦の外に出られて、かなりリラックスしてるように見えるけど?

まぁ、君たちの試験も兼ねた任務だからね。
どうする? アレンはハリーの返事を待っているよ?

ハリー

不満はありません。
不安、とでも言いますか・・・その、野営が必要になる編成のことも含めて、何かこう・・・ひっかかるものがあるだけです。

アレン

ほぉぉ。
今回の任務に、何か別の含みがあるんじゃねぇかとか、疑ってる感じか?

ハリー

いえ、疑うなんてそんな。
僕はただ・・・。

ブレンダ

ハリーは、フィリアの事が心配なんだろ?
もし危険な事態に遭遇して、この子の身になにかあったらって考えると、少しでも不安要素は取り除いておきたいのさ。

ハリー

そのような個人的な話ではありません。
それに、仮にそうだったとして、仲間の身を案じるのは悪い事ですか?

アレン

いんや。それでいい。
何事にも慎重ってのはいい事だし、仲間を大切に思うのは当然だ。
ブレンダ、お前も二人を茶化すのはそのへんにしとけよ。

ブレンダ

・・・ごめん。悪かった。
茶化すつもりは無かったんだけどね。
アタシも調子に乗り過ぎた。

フィリア

な、何かアレンさんが超カッコイイんですけど・・・。
砦に居た時とは別人みたい。

ハリー

腐っても正騎士。しかも、騎士団でもトップクラスの人ですからね。
まぁ、緊張感のONとOFFが極端なところはありますけど・・・。

アレン

聞こえてっぞ?

ハリー

聞こえるように言ってますから。

アレン

ハッハハハ!
ほんと、大物になるぜ、お前はよ!!

ブレンダ

けどさ、アタシもちょっと気になってるっちゃあ、気になってるんだよね。
ハリーの言うように、この任務には何か別の含みがあるように思えて仕方ないんだよ。

ブレンダ

アレン。あんた、何か知ってるんだろ?
アタシらが団長んとこに着く前に、あんたと団長で何を話したんだい?

アレン

参ったな。
ブレンダはともかく、ハリーにまで気取られちまったんじゃあ隠しても無駄か。

アレン

その事については、野営地に着いたら話す。
とりあえず、今は移動に集中しようや。

ブレンダ

了解。

ハリー

了解しました。

ハリー

先輩。
この任務は僕たちのデビュー戦に相応しい、やりがいのある任務になりそうですね。

フィリア

ふえっ? そうなの?
あれ? ひょっとして、私だけ話題について行けてない?

どうする、フィリア? 話がよく飲み込めていないようなら、『話術』や『説法』を使って、他にも何か聞き出す事ができるかもしれないよ?

フィリア

うーん・・・やっぱ、やめときます。
隊長も、野営地に着いたら話してくれるって言ってますし。

よし、それでは少し時間を進めよう。
その後の道中は、特に問題もトラブルも無く順調に進む。やがて陽が落ちて、来てあたりも薄暗くなってきた。

フィリア

今、どの辺なのかは地図でわかります?

そうだね。ちょうど中間地点といったところかな。周囲は平原というか草原が広がっていて、進行方向右手前方にはルブルックの森が夕闇のなか黒い影のように見えるよ。
この先に支道があって、そこを右にちょっと行けばルブルックの森にたどり着く。ルブルックの森にはリアス湖があって、そこで獲れるリアス魚の味は絶品だ。

フィリア

ルブルックの森に、リアス湖、と・・・。
なんか後半は、やたらと冒険世界の大いなる意思を感じる解説がありましたね?

アレン

よっしゃ。だいたい予定通りだな。
そんじゃあ今日は、ルブルックの森で野営だ。
ハリー、そこの枝道を右に行け。

ハリー

了解です。

フィリア

うわー。
湖畔の森でキャンプとか、楽しそう。

フィリア

・・・って、ちょっと待って下さいよ?
湖畔のキャンプ場?
いやいやいや、まさかそんな事は、無いですよねー?

ブレンダ

何ぶつぶつ言ってんだい?

フィリア

あははは。
ちょっとクリスタル・レイクのキャンプ場でおきた惨劇を思い出しちゃって・・・。

アレン

クリスタル・・・何だって?

フィリア

あ! いえいえ、何でもないんです。
忘れて下さい!
あはははは・・・。

ブレンダ

ほんっと、たまーに変な事口走るんだよね、この子は。

フィリア

すみません、すみません。
変な妄想癖があって、ほんとすみませーん。

ハリー

・・・先輩。
ここが何所どこなのかを忘れないでくださいよ?

フィリア

はい。
ごめんなさい。

支道に入って少し進むと、ルブリックの森の縁にたどり着く。アレンの指示で左手から森の縁を回り込み、木々の根元の少し開けた場所に馬車を停めた君たちは、とり急ぎ野営の準備を始めることになる。
少し先では、リアス湖の水面がきらきらと輝いているのが見えるね。幸運にも今夜は天気も良く、夜空は輝く星の天蓋で覆われている。天頂には死神の鎌を思わせる青白い三日月が悠然と世界を見下ろしているよ。

アレン

有難てぇな。
今夜は月が高い。
これだけの月明かりがあれば、夜でも見晴らしが効く。

ハリー

・・・月、ですか。
この世界にも、月はあるんですね。

アレン

・・・ん?

フィリア

ハリーくん、ハリーくん。
ここが何所なのかを忘れちゃダメだよ?

ハリー

・・・ふふっ。
そうですね・・・。

アレン

ほーん、そんな感じなのか?
ま、いいけどよ。

アレン

そんじゃ俺は、ちょっくら辺りの様子を調べてくるぜ。

ブレンダ

じゃあ、あたしは湖で水を汲んで来るよ。

ハリー

では、僕たちは火をおこして野営の準備をしておきます。

フィリア

私はハリーくんを手伝いまーす。

そんなこんなで、野営地の設営も無事に済み、みんなは焚火を囲んで一息つく。とはいえ、周囲の警戒は必要だからね、最初の見張りはフィリア、君だ。ブレンダも、焚火を挟んだ反対側で、周囲に注意を払っている。そんななか、小さく息を吐いてから、アレンが話し始める。

アレン

さて、道中での話だが・・・。
お前らが察した通り、今回の任務は単純な新人テストじゃねぇ。

アレン

・・・単純そうに見えるが、単純じゃないかもしれねぇ。
ヤバそうに見えて、もっとヤバいかもしれねぇ・・・。

アレン

ロイ団長はそう言ってから、こいつを俺に渡した。

言いつつ、アレンは腰のポーチから小さな木箱を取り出した。それは拳をふたつくっつけたくらいの大きさをした、長方形の箱だ。それを見て、ブレンダが小さくヒュッと息を吸い込む。どうやらブレンダには、その箱の中身が何なのか察しがついているようだね。

ブレンダ

そいつが必要になるような任務って事かい?

アレン

必要になるかもしれない任務、ってだけの話さ。

ハリー

・・・・・・。

ブレンダ

・・・はぁ。

ブレンダ

いくら人手不足とは言え、そんな任務に見習いを行かせるかね?

アレン

だから、俺とおまえが一緒に行くんだろ?

アレン

それにな、俺はこの2人なら立派に任務をやり遂げられると確信してる。
今回の事に感づいたのだって、立派なもんだ。

ハリー

その信頼に応えられるよう、努めます。

アレン

なっ?
ハリーもこう言ってる事だしな。

ブレンダ

・・・いいけどさ。
もしマジでヤバい事になったりしたら、帰ってから団長にガッツリ文句言ってやる。

アレン

いいねぇ。
ついでに、特別手当と特別休暇もふっかけようぜ!

そんな事を言いつつ、カッカッカと笑うアレン。そんなアレン釣られるように、ブレンダもクスリと口元を緩めている。

フィリア

えーっと、つまりこの任務って、試験とかそーゆーのじゃなくて、本気系の危険な任務って事?

アレン

そもそも、安全な任務なら、俺たち騎士団が出張る必要も無いしな。

フィリア

ま・・・また緊張してきましたっ!

ハリー

大丈夫ですよ。
先輩の事は、僕が絶対に守ります。

ブレンダ

アタシたちの事も忘れんじゃないよ?
そこは、僕たちが守ります、だろ?

フィリア

そ、そんな事言うんだったら、私だって見習いとは言え騎士団の一員ですから!
守られる立場じゃなくて、守る側の人間なんですからねっ!!

アレン

ハッハッハ!
そういうこった!!

それではここで『聴術』か『覚法』でチャレンジをしてもらおう。『聴術』は小さな物音を聞き取る能力。『覚法』は視線や気配を感じたり、物事を覚えたりする能力だ。

フィリア

・・・どっちも持ってません。うるうる・・・。

ハリー

『聴術』はありませんが、『覚法』なら[6]です。
僕が気配を探ってみましょう。

ふむ・・・成功したようだね。
ハリーは、付近に人の気配がある事に気付く。数は5人以上。

ハリー

『覚法』[6]で、敵意というか、殺気、みたいなものは感じ取れるんでしょうか?

騎士団としての訓練も受けているからね、特に敵意や悪意は敏感に感じ取れるよ。そうだねえ、気配から伝わってくるのは・・・悪意と困惑、そんなところかな?

ハリー

なるほど。商人か開拓民あたりだと思って近づいてみたけれど、騎士団だったので驚いている、というところでしょうか?

アレン

どうやら、ハリーは気付いたみたいだな。
・・・さぁて、俺や団長の信頼に、応えて貰うぜ、見習い共。

フィリア

ふえぇ・・・何かカッコイイ場面なんだけど、私、いいトコ無しですぅ。

ブレンダ

情けない声出すんじゃないよ。
アタシが1年みっちり稽古つけてやったんだ、もっと自信持ちな!

流石はトップクラスの正騎士だけあって、アレンもブレンダも何者かの接近には気付いていたようだね。そのうえで悠然と構えているのが頼もしい限りだ。

アレン

さぁて、そんじゃま、とりあえず隠れんぼは終わりにしとくか。

アレン

オラァ!
どこのどいつか知らなねーが、コソコソ隠れてないで出てきやがれ!!

ブレンダ

そんなに殺気を垂れ流してら、隠れてたって意味ないからね!

アレンとブレンダの声が夜空に響き渡る。その後数秒の沈黙の後、どこからともなく「チッ」と舌打ちの音が聞こえて、茂みの中からもそもそと人影が現れた。

盗賊?

何でぇ。気づいてやがったのか。
だったら、荷物を置いてさっさと逃げりゃあ良かったのによ。

フィリア

うわぁ、いかにもな悪党っぽいのが出て来たなぁ。

明らかに盗賊といった風体の男が8人。思ったよりも、数が多かったね。頭領とおぼしき男が合図をすると、部下たちがざざっと動いてきみたちを取り囲むよ。

ハリー

好きにさせておいて良いんですか?
応戦しましょう。

ブレンダ

隊長の命令が無いうちは動くんじゃないよ、ハリー。

ハリー

・・・・・・了解。

盗賊たちは君たちを包囲したまま、手に手に武器を構えてこちらを威嚇している。なかなか襲い掛かって来ないのは、こちらの力量を測りかねているからだろうね。おそらくは、ハリーの予想通りだろう。こちらが武装しているのを見て、困惑している様子も伺える。

アレン

俺らは『暁の騎士団』だ。
焚火にあたりたいってーんなら、こっちに来て座れ!
商談なら他をあたんな!

盗賊の頭領

とぼけた事言いやがる。
騎士団だろーが何だろうが、こっちもこれが仕事なんでな。
気の毒だが、命以外のモンは身ぐるみ剥がせてもらうぜ!!

盗賊A

頭領、相手は騎士団だぜ?
やめといた方がいいんじゃあ・・・。

盗賊の頭領

っせーんだよ! 騎士団に見つかっちまったからにゃあ、逃げたって追って来るだろうが!
だったら、もうやるっきゃねーんだよ!!

盗賊の頭領

数はこっちの方が多いんだ。
たかが青二才2人とガキ2人じゃねーか!
びびってねーで、やっちまえ!!

盗賊A〜G

おおーっ!!

アレン

アホどもが。
警告はしたぜ?

半ばヤケクソのようにも見えるけど、盗賊たちは一斉に襲い掛かってくる。
さぁ、いよいよフィリアとハリーの初陣だ!
つづく
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