光と闇のレジェンドiF -皚々たる冀望-[第1章]

第4話 未知の敵 Unknown Enemy

盗賊の頭領は部下2人を従えてアレンと向き合っている。さらに2人がブレンダに。もう2人はハリーに対峙している状況だ。残りの1人は、やや舐めきった表情で無警戒にフィリアに近づいていく。

フィリア

ふえっ? ひとり?
ってか、こっち来てる?
あわわわわ。

ふむ。フィリアもちょっと気が動転してる感じかな?
なら、君がもたもたしている間に、ナイフを手にした盗賊が切りかかって来るよ!

フィリア

うひゃっ!
と、とにかく避けますっ!!

どれどれ、フィリアの『避術』は、と・・・[5]!?
あー、これは1年間騎士の訓練を受けたフィリアであれば、余裕で攻撃をかわすことが出来るね。フィリアに攻撃を躱された盗賊は「ん?」という顔になって、不思議そうな表情で自分が手にしたナイフを見ている。

ハリー

その間に、僕は剣を抜いて先輩の援護に向かいます。

アレン

ハリー!
お前はおまえの相手に専念しろ!!

ハリー

えっ?
・・・しかし・・・

ブレンダ

過保護になるんじゃないよ?
フィリアを信じてやんな!

フィリア

うん。大丈夫!
私だって暁の騎士団の一員だもん。
こんなのに負けたりしないから!

盗賊G

こんなのとは何だコラァ!

我に返った盗賊は、再びフィリアに切りかかってくる。

フィリア

もう一度、『避術』でかわしますっ!

・・・うん。余裕で成功だ。
派手に空振りした盗賊は、足がもつれる感じでよろめいている。

フィリア

・・・ちょっと、足ひっかけてみたりして?

そりゃあもう、盛大にすっ転ぶね。

フィリア

おーっ。
私ってば、ホントに強い?

ハリー

先輩!
余裕を見せてないで、さっさと倒してください!!

ハリーがフィリアを気にした一瞬の隙を、盗賊たちは見逃さない。・・・と言うよりは、ハリーの声にびっくりして、つい反射的に切りかかった感じかな? ハリーの前に居た盗賊が二人、同時に襲い掛かって来るぞ。

ハリー

・・・応戦します!

さて、ハリーの『剣術』は[4]だったね。『避術』はフィリアと同じ[5]、『力性』[4]の『動性』[4]かぁ・・・これはもう、盗賊が気の毒になっちゃうくらい勝負にならないね。
ハリーにとっては相手の剣を受け流す程度でも、盗賊にしてみればものすごい力で弾きとばされている感じだ。高い金属音が響き渡ると同時に、盗賊が手にしていた短剣はくるくる回転しながら宙を舞っている。

ハリー

・・・ならば、これで一気に・・・っ!

アレン

ハリー!
殺すんじゃないぞ!!

ハリー

・・・了解しました。
では、刃ではなく、剣の腹で盗賊を打ち据えます。

ん? 剣の腹で? いいけど、力加減、普通でいっちゃう感じかな?

ハリー

むしろ全力で。
悪党に手加減する気はありませんから。

アレン

ちょ! おま・・・

容赦ないね。さて、ハリーの『剛腕』は[3]あるし、『力性』も[4]あるからね、これは・・・うーん。やっぱりそうなっちゃうかぁ・・・。

ブレンダ

あっちゃあ〜。

ハリー

・・・・・・?

ハリーが叩きつけた剣は盗賊に命中する訳だけど、相手の突進力も相まってカウンターみたいな感じになるから、すさまじい威力だ。盗賊の皮膚がひしゃげ、骨が砕ける感触がハリーの手に伝わったかと思った直後に、澄んだ高い音がして、剣を持つ手からすっと負荷が消える。
剣で打ち据えられた盗賊は短く呻き声を上げた後、前のめりに倒れて顔面から地面に突っ込んでしまう。そして、ハリーの剣はと言えば、柄の先、ショルダーの辺りからポッキリと折れてしまっている。

ハリー

・・・あっ!!

驚いている暇は無いよ。倒れた盗賊のわきを抜けて、もう一人の盗賊がとびかかって来る。盗賊はハリーに掴みかかると、そのまま覆いかぶさって押し倒そうとする。

フィリア

わわわっ! ハリーくんピンチじゃん!!
今、助けに・・・

フィリアだって、ハリーを気にしている余裕は無いよ。転んだ盗賊は起き上がりつつ、低い体勢からフィリアの腹部にタックルをしてくる。
盗賊は2度もフィリアに攻撃を躱されているからね、タックルの折に少し両手を広げ気味にして、避けられないように意識した攻撃を加えてくるよ。

フィリア

も、もう一度、避けてみます!

ふむ・・・フィリアの『避術』は確かに[5]と高くはあるんだけど、『動性』が[1]と低いのが足を引っ張ったね。残念ながら躱しきれない。
盗賊の左腕で腰から背中に抱きつかれ、そのままぐいっと引き寄せられる。そして盗賊は右手に持ったナイフをフィリアの腹部に突き立ててきた。フィリアはお腹に、ずしんと重たい衝撃を感じるよ。

フィリア

あうっ! ・・・や、やられちゃった!?

ハリー

先輩ッ!!

ハリー

糞ッ!!
僕は、もう一人の盗賊を格闘でねじ伏せてから、先輩を救出に向かいます!

ブレンダ

ちょっ!
ハリー、落ち着きなって!!

ハリー

いくら正騎士の御言葉とはいえ、聞けません!
盗賊に全力で拳を打ち込みます!!

ハリーの『動性』は[4]だ。素早く対応したうえで、騎士として訓練を積んだ者が『格闘』[2]を使い、さらに『力性』が[4]とくれば、武器を叩き落されて素手になっている盗賊なんて、相手にもならないね。
ハリーの拳をまともに受けて、一瞬のうちに意識が吹き飛び、まるで意思を持たない棒切れのように地面に倒れ込む。

フィリア

えっと・・・あの、私はどうなっちゃうんでしょうか?

フィリアの『知性』は[5]だけど、『覚法』は持っていないみたいだね。だとすると、明確に『ナイフでお腹を刺された』と認識したうえで、ショックで気を失っちゃうかな?

フィリア

ふえぇぇっ! さ、刺されちゃいましたぁ!!
・・・・・・きゅう。

ハリー

フィリア先輩に組み付いている盗賊を蹴り上げます!!

相手はフィリアに組み付いたままだからね。抵抗も防御もできずにハリーの蹴りをマトモに受ける。ドンッと鈍い音が響いて、盗賊の両足が地面から離れてしまう程の威力だ。

ハリー

さらに攻撃して、確実に仕留めます!

えっ? あ・・・うん。ほんと、容赦ないね。
ハリーの追い打ちで、盗賊は数メートル吹っ飛ばされる。すでに意識を失っているみたいで、そのまま投げ捨てれらたゴミ袋みたいに、地面にぶっ倒れてしまう。
気を失っているフィリアは、組み付いていた盗賊という支えを失って、そのまま地面に倒れ込んで・・・

ハリー

当然、受け止めますよ!
受け止めてから、先輩の傷を確認します!

フィリアが倒れる前に、ハリーが抱きとめる事に成功する。フィリアの腹部を確認する訳だけど、ハリーは『医術』を持ってないんだよね? まぁ、持っていなかったとしても、フィリアの状況はすぐに解る訳なんだけど・・・。

ハリー

すぐに解る、って・・・まさか!?

盗賊のナイフは、フィリアの鎧が完全に防いでくれているね。

ハリー

・・・え?

フィリアは無傷って事。

ハリー

つまり先輩は、刺されたと思って驚いて気を失った、と・・・?

そうなるね。

ハリー

・・・よ、良かった・・・。

ブレンダ

だから、落ち着けって言ったのに・・・。

アレン

いつも冷静なハリーが、そこまで取り乱すとはな。
やっぱり、お前ほどの奴でも初陣は怖いか?

ブレンダ

・・・それだけじゃないと思うけど・・・ま、その話は置いとくさ。

ハリー

面目次第もありません・・・って、師匠とブレンダさんの相手は?

ブレンダ

・・・ああ、これ?

見ると、ブレンダの足元に二人の盗賊が倒れている。ブレンダに片足で踏みつけられて「ぐえっ」とか声をあげているよ。手をぱんぱんとはたきながら、にっこり笑うブレンダは、汗ひとつかいていないし、息も乱れていない。しかも、剣は鞘に収まったままだ。

ハリー

し、師匠は?

アレン

おう。こっちも、じきに終わるぜ。

アレンは盗賊の一人の襟首を掴んだまま、片腕一本で釣りあげている。ぶら下がった盗賊は、半分白目状態で足をバタつかせている。そして、アレンの足元には、やはり盗賊が一人、突っ伏している。こちらは完全に意識を失っているようだ。
ハリーの様子をちらりと見てから、釣り上げていた盗賊をブン投げる。軽く数メートル放り投げられた盗賊は、頭領の足元にドスンと落下した。

アレン

ま、正騎士ともなれば、俺もブレンダもこの程度の奴らなら素手で楽勝ってとこだわな。ハッハッハッ!

何て言いながら、アレンも鞘に収まったままの剣の柄を拳でコンコン叩いている。

ハリー

・・・むしろ師匠の場合は、素手の方が凶悪ですから。

アレン

それで・・・頭領さんよ。
どうする? まだやるかい?

アレンに声をかけられた頭領は「ひっ!」と短く声を上げる。

盗賊の頭領

何なんだよお前ら・・・こっちは、倍の頭数が居たんだぞ?
それを事も無げによぉ・・・。

アレン

言ったろ?
俺らは『暁の騎士団』だって?

盗賊の頭領

『暁の騎士団』何て、聞いたこともねぇや。
ハッタリかましてやがんのかと思ったぜ・・・。

アレン

何だぁ? 知らねえってか!?
『暁の騎士団』をマイナー扱いしてんじゃねーぞコラァ!!

盗賊の頭領

うひいっ!!

ブレンダ

ま、実際、正式な騎士団になったのって数年前だしね。
それ以前は、自警団みたいなもんだったし。

ブレンダ

そもそも、本来はノーファス海峡を守るのが務めだし、内陸で活動する機会は少ないからさ。

アレン

何でわざわざ、知名度が低いってことを納得させるような説明してっかなオメーは?

ハリー

・・・どうやら、決着はついたようですね。
フィリア先輩の様子はどうですか?

うん。そろそろ目を覚ますよ。

フィリア

うーん、むにゃむにゃ。
・・・って、あれ? ハリーくん?

ハリー

・・・うわっ!?

フィリア

え? なになに?
何がどうしたの?

ハリー

いえ、すみません。
先輩の顔があまりに近かったもので。

フィリア

ってか、私、確かお腹を刺されて・・・
あれ? 全然痛くない?

ブレンダ

騎士団支給の鎧が、片手で突いたナイフくらいで抜ける訳ないだろ?

ブレンダ

・・・ったく。
気を抜いてっから、そんなコトになんだよ。
基地に戻ったら、鍛えなおさないとダメだね。

フィリア

ひえぇぇぇっ!
そ、それはご勘弁を〜。

アレン

なに和んでんだよ?
こいつらをひっ捕まえて、連行すっぞ?

ハリー

この数を、ですか?

アレン

力の差は、分かっただろうさ。
もう無駄な抵抗はしないよな?

盗賊の頭領

ち、ちくしょう!
覚えてやがれっ!!

そう捨て台詞を吐き捨てると、盗賊の頭領はくるりと背中を向けて、全力で走り出す。

アレン

ありゃ。逃げやがった。
なるほど、抵抗は諦めて逃げるってテもあったか。

アレン

ハリー! 追うぞ!!

ハリー

もう戦意は失っているようですし、部下も全員捕らえました。
追う必要は無いのでは?

アレン

馬鹿言ってんじゃねぇ!
ここで逃がしたら、アイツはまたよそで同じ事をやるぞ!!

アレン

甘い考えで逃がした悪党が、どっかで誰かの命を奪っちまったらどうする!!

ハリー

・・・すみません。
浅慮あさはかな発言でした。

ハリーが反省している間にも、アレンは盗賊を追って走って行く。急がないと、アレンたちとハリーとの距離がどんどん離れていくよ?

ハリー

全力で追います!

フィリア

わ、私も追います!

ブレンダ

あんたは、アタシと一緒にそこに転がってる盗賊どもを全員縛り上げんだよ。

フィリア

あれ?
ブレンダさんは行かないんですか?

ブレンダ

あんた一人残して行けないだろ?
それに、追撃は走るのが得意な奴に任せときゃいいのさ。

なんて言って、ブレンダはフスッと鼻を鳴らす。
アレンは『走法』[4]、ハリーは[5]、ブレンダは[1]だからね。ちなみにフィリアは・・・。

フィリア

えへへへ。
『走法』持ってませーん。

ブレンダ

何、笑ってんだい。ほら、ロープ。
さっさと転がってる奴らを縛っちまうよ!

さて、逃げた盗賊を追って行ったハリーたちの方なんだけど、盗賊の頭領はリアス湖に向かって真っすぐに走って行く。

ハリー

変ですね。

ハリー

逃げる気なら、もっとちょこまかと方向を変えるとか、森の中に逃げ込むとかの方が、追跡者を振り切りやすいのでは?

アレン

つまり、湖に逃走手段を用意してるってこったな。
まぁ、船か何かなんだろうけどよ。

ハリー

船はまずいですね。
陸から馬で追っても、追いつけないでしょう。

アレン

おうよ。
だから、船に乗る前に捕まえる!

ハリー

了解です!

しかし、頭領との距離はなかなか縮まらない。不意を突かれて逃げられたので、だいぶ離れていたこともあるけど、頭領もなかなかの健脚のようだ。小太りな体で器用に重心を取りながら、きれいなフォームで走っている。さながら、小柄なスプリンターといった雰囲気だ。

アレン

ダテに頭領やってねーな。
なかなか速ぇじゃんよ!

野営地からリアス湖までは、そう遠くないからね。やがても月明かりにきらきらと輝く湖面が見えてくる。湖岸に一艘、ボートが結わえつけられているのが見える。

ハリー

あれに乗り込まれたらアウトですよ!

アレン

だから、その前に捕まえるって言ってんだろ!!

これはかなりギリギリの競い合いになりそうだね。頭領はボートに飛び乗ると、結わえていたロープを短剣で切断し、湖岸の岩を蹴る。ボートがすうっと湖面を滑り始めた。

アレン

やべえやべえやべえ!
ハリー! お前、泳げっか?

ハリー

まぁ、師匠と同じくらいには・・・。

なるほど、ハリーもアレンも『泳法』は[3]だね。

ハリー

・・・そういう問題じゃないでしょう。
のこのこ泳いで追って行ったら、船の上から剣で突かれて終わりですよ。

アレン

そりゃそうだ。

数秒遅れてハリーたちが湖岸に着いた時には、ボートは陸から10m以上離れてしまっている。頭領は逃げ切ったと安心したのか、こちらを見て高笑いをあげているよ。

アレン

ンなろぉ!
ハリー、どっかに拳くらいの手ごろな石とかねーか?
あのハゲ頭にブチ当ててやる!

ハリー

師匠のパワーでそんな事したら、頭領の頭なんて吹き飛んでしまいますよ?

アレン

知るかそんな事!

ハリー

そこは、知ってください。
さっきは『殺すな』って言ってたじゃないですか。

アレン

・・・と、とにかく、一旦野営地に戻って、馬で追うぞ!

ハリー

・・・了解です。

ハリーとアレンがそう言って野営地に戻ろうとした時、突然湖面が揺らいだかと思うと、何か巨大な岩のようなものが水中から飛び出してくるよ。
鋭角と鈍角を組み合わせたように直線的なアウトラインを持つ物体で、とても生物に見えるものではないんだけど、普通に意思を持っているかのように動いている。
胴体と思われる部分から伸びた2本の腕らしきものが高く掲げられて、その様子を呆然と見ている頭領のボートに振り降ろされた。
木材がバリバリと裂けて砕ける音と、激しく立ち上る水柱の音は、まるで湖面で何かが爆発したかのような威力だ!

ハリー

・・・は?

アレン

・・・なん・・・だ、ありゃあ!

???

コォォオオォオオォォッッッ!!

カン高い呼吸音のような音を響かせて、その物体は身を揺する。まるで、咆哮しているようだ。
少しの間静止していたが、胴体部分には複数の光る穴があって、その輝きがちらちらしたかと思うと、ハリーたちの存在に気付いたかのように、ゆっくりとこちらに向き直る。

ハリー

これは・・・マズくないですか?

アレン

ああ・・・ヤベぇな・・・。

つづく
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