作家の異常な愛情

Ⅳ 映像化の複雑怪奇、カネと欲望が渦巻く魔界 原作改変なんて大した問題じゃない
【中編】

「……意味がわからないが?」
「監督ってのは大変な仕事だって聞きました。上も下も、敵じゃないけど味方でもない、そんな中で映像作品を仕上げなきゃいけない、そりゃ確かに大変だな、ひとりでも味方がいれば、気持ち的には楽になるんじゃないかな、と思ったんです。俺も、『女護ヶ島』が映像になるなら、現場にひとりでも味方がいれば気分的に楽だし。ウィウンウィンだと思いませんか?」
 カントクは、フン、と鼻で笑う。
「気分ねえ。出資してくれる、ってわけでもなさそうだな?」
「そこまで関わると面倒くさくなりそうなんで」
「じゃあ、ナニをしてくれるってんだい?」
「カントクを、応援します。味方だから。カントクのやりたい事を全肯定します。カントクのやりたい事は何ですか? 今回の、この仕事に当たってやりたい事は?」
「俺は」
 カントクの額にシワが寄る。
「子供が楽しめる時代劇を作りたい。『銀魂』や『鬼滅の刃』で下地は出来てるんだ。ゴールデン枠ならやるべきだ。それをプロデューサーが」
「OK、OK、いいじゃないですか。素晴らしい、俺も同意です。やりましょうよ」
「簡単に言うんじゃねえよ、今の子供に見せるなら、太秦の殺陣じゃダメだ、でも、特撮にもCGにもカネがかかる」
「残念! 応援はカネ以外にしたいんで! でも、他に手がないってなったら、考えますよ。こう見えて売れっ子作家なんで、カネがないわけじゃないんです。でも、とりあえずは、『女護ヶ島』がなんかの力になりませんか?」
「……美少女だけの主人公チーム、ってのは、華がある。子供受けもするだろう。でもそれだけならオリジナルでも」
「『女護ヶ島』を使いたい、キャラクターライツで商売したいって言ってるスポンサーがいるって聞きましたよ? 例えばですけど、カントクがこう言えばどうなります? 
 原作者は最初渋ってたけど、オレが説得した、キャラクターライツについても認めさせた、いやー大変だったよ、ところで、アクションをハデにすれば子供向けのキャラクター商品もバンバン売れると思うんだけどなー、もうちょっと制作費があればなー。
 とかね? 例えばですけど。スポンサーに対する交渉の武器になりませんかね?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
 角川のライツ担当者が慌てた。
「キャラクターライツはウチが」
「小説ベースのライツはね。役者を使った映像ベースのライツは、どっちにしろ別枠になるんじゃないですか?」
 このくらいならちょっと調べれば出てくるから知ったかぶりが出来る。
「役者さんの許可だって必要になるわけだし。まあそのへんの細かいところは、商品化契約とかでおいおいお願いしますよ。どうです?」
「弱いかな、それだけじゃ」
「それだけじゃないですよ、たぶん。ちょっと今すぐには思いつかないけど。
 原作者と交渉出来る唯一の窓口、というステータスって、けっこう高くないですか? カントクのやりたいように、そのステータスを振り回していいんですよ? 『女護ヶ島』を、原作者の俺を、自由に使ってください。悪者にしたって構わない。カントクのやりたい事のいいわけに使ってください。原作ではこうなっている、原作者がやりたいと言っている、これをやらなきゃ版権引き上げるって言ってる、逆に、原作者はやりたがっていたけど、俺が止めた、俺が交渉した結果だ、俺の手柄だ。なんでもいい。ま、事後でも良いけど情報だけはください。あんまりびっくりはしたくないんで」
「なんでそこまでする?」
 俺は思いっきりの笑顔になってみせた。
「だから言ってるじゃないですか。俺はカントクの味方だから、ですよ」
「それでセンセイになんの得がある?」
 俺の笑顔では説得は無理だった。まあ予想はしてたよ。
「俺がカントクの味方だから、カントクも俺の味方だ、と俺が思えること、それが欲しいだけなんですよ。
 俺はね、カントク。映像の世界の現場に入る度胸も覚悟もない。集団でものを作る経験はないし、やりたいとも思わない。敵でも味方でもない人たちのいろんな思惑を調整しながら、自分の思惑を通さなきゃいけないんでしょ? 見るだけなら面白そうだけど、仕事にはしたくない。
 で、思いついたんですよ。そんな現場の誰かを味方にして、その人の後ろから現場を見てみちゃどうか、ってね。この場合、その誰かが本当に味方か、その人が俺を味方と思ってるかどうかは関係ないんです。俺が、その誰かを味方だと思って、100%肯定する。それだけでいい、
 むしろそうしなきゃ意味がない。その誰かの思惑をはかって調整を始めてしまったら、俺は、敵でも味方でもない人たちの思惑が入り乱れる現場に巻き込まれてしまうから。他人事としても野次馬して楽しめなくなってしまう。
 まあ、カントクにも、俺が敵じゃない、味方だと思ってもらえば気分は楽だけど、それは俺が得だからとか、見返りだとかそういうんじゃないんです。損得が入ったら、それって思惑の調整じゃないですか。それをやりたくないから、俺はカントクを無条件で全肯定するんです。それだけで十分なんですよ」
 苦笑いするカントク。
「俺をスケープゴートにしようってか?」
「とんでもない。俺をスケープゴートにしてくれって言ってるんです」
「とんでもないセンセイだな、人たらしの才能あるぜ。アンタに調整役やってもらうのもアリだな」
「まさか」
 これだけは否定しないといけない。
「これは相手がひとりだからできる裏技みたいなもんで、俺にはこれしかできませんよ」
「違いねェ」

「それで、なんとかなったんですか? その、二次利用の交渉は?」
「その場で、ライツ担当の人が怒り出した」
「ダメじゃないですか!?」
「まあいきなりは無理だと思ってたけどな。でも、味方のはずの角川のライツ担当に怒られたのはちょっと意外だった」
「え? 東映のライツ担当に怒られたんではなくて?」
「しかも、反対側で、カントクも東映のライツ担当に怒られてるんだぜ。勝手に話を進めるな、って、角川も東映も、同じ事で怒ってるんだよ。ちょっと面白かった」
「面白がっている場合ではないと思いますけど」
「でも、怒ってる理由を聞いて、ああ、なるほど、と思った。要するに、それは自分の、ライツ担当者の仕事だ、って事なんだな。
 二次利用の処理は角川に委任する、って契約があるからね。そこはごめんなさいしたよ、もちろん。でもさ、俺は勝手をやったかもしれないけど、ライツ担当者さんを困らせたり怒らせたくてやってるわけじゃない。だから、何を怒っているのか、もうちょっと具体的に教えていただけませんか、って訊いたんだよ。
 ライツ担当者さんだって社員だ。二次利用の処理で俺が勝手なことをやってそれが通ると、ライツ担当者さんは仕事をしていない、って評価になってしまう。それだけでも問題だし、もしその勝手が原因でトラブルになったら、ライツ担当者さんの責任になってしまう。だから困るし、怒るんだと。
 だから、ライツ担当者さんにも、カントクに伝えたのと同じ事を伝えた。俺はライツ担当者さんの味方です、ってね。キャラクターライツの件とかもろもろ、自分がやった交渉の結果、自分の手柄にしちゃってくださいよ、逆に、俺を悪者にして、自分が交渉して角川の損を最小限にとどめた、でもいいし。交渉窓口ってステータスを、角川側で思う存分振り回すライツ担当者さんを、味方の俺は応援します、ってね。
 東映側のライツ担当者さんも同じ。で、最低限、この四人で口裏合わせ、いや間違った、情報共有はしよう、味方の味方は皆味方、みんなで幸せになりましょうよ、そんな意味のことをさ、言ったらなんとなく納得してくれた」
「納得、するんですか? それで? 味方とか応援とか、言いにくいですけど、空手形というか、口だけ、センパイがそう言ってるだけですよね?」
「そう、だけど、それが実は、一番重要なんじゃないかな、と感じたんだ。Gさんから、映像化の面倒くささの話を聞かされた時にね。
 丁度、コミック原作のテレビドラマ化でトラブルになってた時期でさ。どう面倒くさいのか、何がトラブルの原因になりやすいのか、その具体例になるだろうと思って、局や出版社が出した報告書を読んでみたんだ」
「ああ。『セクシー田中さん』、でしたっけ?」
「そう。人が亡くなってるんであまり軽々に知ったかぶりはできないけれど、当事者の人たちが何を感じて何を考えていたか、何を許せないと思ったのか、何に怒っていたのか、証言が並んでいるんだけど、一番肝心な事に触れていないように感じたんだなあ。隔靴掻痒、みたいな? ネットでは、そうやって責任逃れをしている、とか言われていたけど、俺はそれも違うと思った。なんて言うかな、虫眼鏡で細かいところをクローズアップしてるだけじゃあ、逆に見えなくなるものがあるんだ。
 このトラブルは、トクベツなものなんかじゃない。世の中に溢れている人間関係のトラブルと同じなんだ。同じ根っこがある、俺はそう感じた。
 トラブルってのはさ、実は悪意をもった誰かが起こす、わけじゃないんだな。悪意を向けられた、と思ってしまった誰かがいれば、起きてしまうものなんだ」
「悪意、ですか?」
「そう。そして、実際に悪意があったがどうかは関係ない。悪意を向けられた、こいつは敵だ、と思ってしまえば、誰かが自分は被害者なんだ、と思ってしまえば、トラブルになってしまう。
 これってさ、映像化とか仕事とかじゃなくても、フツーに友達とか家族とか、人間関係のトラブルって、たいていそんな感じじゃないか? 思い当たる事あるだろ? 例えば福地、後で食べようと買ってきたアイスを、妹さんが知らずに食べちゃったとしてさ」
「まあ……それくらいなら愛嬌じゃないスかね? ワザとじゃないんだし」
「アニキのだって知ってたけど、悔しがるだろうと思って食べてやったぜ、ザマア、とか言われたら?」
「ウチのはそんなコじゃないッスよ!」
「たとえばだよ、たとえば。でも、そんな事言われたら怒るよな? 言われなくても、普段、仲が悪い同士だったら、俺をコケにするために食べたんだ、と思い込んで、ケンカが始まるかもしれない。悪意を向けられた、被害者だと思ってしまう、で、トラブルになる。わかるだろ?」
「相手を悪者にしてしまうから、トラブルになる、という意味ですか?」
「そういう言い方もできるな。
 日本テレビがまとめた調査報告書には、話し合いが足りなかった、報告、連絡、相談が徹底していなかった、みたいな通り一遍なことが書いてある。それはそれで間違いじゃないんだろうけど、ミスや怠慢、誤解があっただけじゃあ、それだけで人は怒ったり許せないとまで感じたりはしないと思うんだよな、俺は。アイスを食べられただけなら愛嬌、と福地が思うようなもんでさ。
 でも、ミスや怠慢や誤解の裏に、やらかしちゃった人の、悪意、が見えたんだ。騙された、と感じてしまった。作品が軽んじられた、自分がなめられた、侮辱された、と思ってしまった。だから怒る。だから許せない。これは間違っている、自分は、自分の作品は不当に遇されて傷つけられた、正されなければならない、少なくとも、自分は声を上げなければならない。
 繰り返しになるけど、悪意が実際にあったのかなかったのかは関係ないし、許せないと感じて被害者の立場で行動を起こした人が正しいのか間違っているのかを論じても仕方ない。ただ事実として、悪意を感じて、それに対する正当な反撃として行動を起こした人がいる、という話で、テレビドラマ版『セクシー田中さん』だけじゃなく、ほとんどのトラブルの根っこにあると、俺は思ったね」
 揃って考え込んでしまう芽宮めぐと福地。
「実際にどうかは関係ない、正誤も論じないって言っちゃえば、そりゃ何とでも言えるッスけど」
「でも、主観視点に絞れば、間違ってはいませんよ。ああ、だから味方とか空手形でいいんですね。センパイがそう思っていること、その主観が重要なんだ」
 芽宮の理解の早さには驚くなあ。
「敵じゃなくて味方だと思うだけで、アイスを食べられたって気にならなくなるんだ。これってすごくないか? 使わないテはないだろう? 映像化に関わる人たち全員を味方に思えればベストなんだろうけど、すごく面倒くさそうだよな。集団作業の面倒くささって、こういうところなんだと思う。それが出来る、それを仕事にして楽しいと思える人が、プロデューサーをやってるんだろうな。
 俺にはそんな事はできないから、味方は絞ることにした、誰を味方にするか、選ぶ事にした。カントクにしたのは、現場の総責任者ってことで、作家の俺とは立ち位置が近いのかな、と思ったからだ。カントクは味方だから、俺は100%肯定する、そうすれば絶対に敵にならない、トラブルにはならない。カントクが俺を味方だと思ってくれれば、味方である事を利用してくれれば、カントクがトラブルに巻き込まれる確率も減らせる」
「実際に出来るんですか、そんなこと」
「出来ちゃうんだなあ、俺には、なぜなら俺は小説家だから。小説書くのと同じなんだよ。
 俺が書く小説の主人公は、俺であって俺でない。俺とは違う個性を持っているし、物語の中の都合があるから、俺の思い通りに動かせるわけじゃないけど、俺なんだ。カントクには、『女護ヶ島にょごがしま』テレビドラマ化、っていう物語の主人公になってもらった」
「ええ……」
 呆れたように頬をひくつかせる芽宮に、俺は笑ってみせる。
「思わぬトラブル、想定外のイベントとかも盛りだくさんだったけどさ。俺は絶対に、カントクの敵にだけはならなかった。主人公には、カントクには頑張って乗り越えてもらった。いやあ、なかなか面白かった、面白い小説になったと思うよ」
「イベントって、例えば?」
「いきなり最初からクライマックス、タイトル変更だなー。会ったその日の夜にカントクから電話かかってきてさ、『戦国ワルキューレ』でやりたい、って。正式に決まったのはその時じゃなくて、他にも幾つかある案から、広告代理店にマーケットリサーチのデータも参考に、プロデューサー同士が話し合って決定したみたいだけど。カントクはこの時から『戦国ワルキューレ』推しだった」
「わたしにとっては最初から『戦国ワルキューレ』ですけど……『女護ヶ島』とは違いますよね、ぜんぜん」
「そもそも戦国の時代じゃないっしょ、天下統一して平和になった江戸時代。ワルキューレって北欧神話ッスよね」
「うん、俺もそう思った。でもカントクはわかりやすさとインパクトを優先したいって言うんだ。で、味方なら賛成してくれよ、センセイ、ってさ。
 まあ確かに、時代小説の棚なら『女護ヶ島』でいいけど、テレビ欄に『女護ヶ島』だとちょっと違和感、固い印象になりそうな気もした。カントクが例として挙げたのは、ドラマの『半沢直樹』だったな。あれが大ヒットしてそういうシリーズとして認知されたけど、ドラマ化される前の原作シリーズは1作目の『オレたちバブル入行組』ってタイトルから『オレバブ』シリーズとか呼ばれていたんだってさ。ちなみに、ドラマ化されたのは2013年だけど原作が出たのは2004年、俺達が生まれる前だ」
「バブルって言葉に時代を感じますね」
「『半沢直樹』は大ヒットして、もちろん原作もベストセラーになって、池井戸潤さんの他の小説も次々とドラマ化された。良い意味でのバブルになったよな。そういう前例があるからさ、まあいいかって感じでカントクに賛成して、それからもいろいろあったけど、『戦国ワルキューレ』になったわけだ。
 次の週にもまた電話かけてきた。これがまた面白い。ライト文芸の出版社にも言われたアレ、姫を若にできないかって言われてるんだけど、センセイは反対でいいよな?ってさ」
「ああ。わたしも監督から聞いたことがあります。元ジャニーズの有名な人を売り込まれそうになったって」
「そうそう。なんか、その人が出れば視聴率が数%は上がる、スケジュールも空いてるんで出すべきだ、って、プロデューサーのひとりが推してきたらしくて。俺は、ライト文芸のときにも言ったように調整は出来るとおもったんだけどさ、カントクは反対だった。女の子だけの雰囲気を大事にしたかったらしくてさ。
 あと、元ジャニーズって扱いが難しいらしい、よく知らんけど。役者さんの写真とか、自由には使えないんだって?」
「そうらしい、ですね」
「ポスターにも主役だけいない、なんてのも見た事あるッスね」
「マーチャンダイジングで味方になってもらったスポンサーさんが子供向けにグッズとか出そうとしても、姫、じゃないか、若のグッズだけはない、なんてことになっちゃう。主役なのに。そういう理由もあって、この話は流れた。カントクはちゃんと俺を悪者にしてくれたよ、いやあ、オレは問題ないと思ったんですけど、原作者のセンセイが大反対で、説得できませんでした、スミマセン、ってさ。おかげで、プロデューサーさんのひとりには恨まれていた、らしい。会ったことないからカントクからそう言われただけだし、『戦国ワルキューレ』が大成功してからはなにも言われなくなったみたいだから結果オーライだけど。
 それからもカントクは、週に一度は電話をかけてきて、こんなことがあったあんなことがあった、センセイは賛成にしといたから、反対にしといたからって。愚痴だけみたいなときもあったし、時間をかなり取られたけど、ある意味、味方として試されてたのかな。でも、俺も楽しかったよ。気楽な立場で、現場を覗き見したいっていう目的は果たされてるんだもんな。
 勉強にもなったよ、カントクのやりたい事が見えてくるとさ、やっぱり小説と映画は違うんだ、それぞれの強みを活かさないといけないんだ、って、知っているつもりだったけど、カントクが『戦国ワルキューレ』を面白くするために考えているいろいろを聞いて、改めて実感したね。
 カントクが、こういう絵造りがしたいっていろんな映画とかゲームとかを例に挙げてきてさ。芽宮と同じ、『キル・ビル』とか『ベヨネッタ』とか、ああ、『キック・アス』とか日本のコミックが原作の『アリータ:バトル・エンジェル』とかもあったなあ。『女護ヶ島』ならここはこうする、そのアクションの流れはそのまま使える、とかね。
 カントクのやりたい格好良さってさ、やっぱりアクションシーンなんだよ。キメの絵があって、それが動いて音がついて、時間の流れまでコントロールしちゃう、スローモーションになったり逆に早送りになったり、これでもかってくらいあらゆる手法を使って盛り上げる、それがカントクにとってのアクションシーンなんだ。小説じゃあ絶対に出来ないことだから、ホント羨ましいよな、そういうところは。アクションで誰がどう動いた、こうやって勝った、なんてのを、絵なし、文章で詳しく書けば書く程、ウソくさくなるんだよな。ウソに見えないように描写を重ねたって、それはただの説明だ、面白いものにはならない」
 「でもわたしは、『女護ヶ島』のアクションシーンも好きですよ? 一対一の果たし合いの緊張感があって。巻毎に別の女戦士を主役にして、心理描写も細かくやるから盛り上がるじゃないですか。4巻目は橘華にスポットが当たってて、一番好きです。語られなかった橘華きっかの内面が細かく描かれるところなんてもう、最高です。ドラマだと表現できませんけど、あそこはちゃんと意識しながら演じているつもりです」
「ありがとう、それはちゃんと伝わるよ、やっぱり芽宮はすごいな。でも、表現方法が小説と実写で違うのは当たり前だから気にしすぎないでな。ドラマのラストのお約束の、姫が身分を明かしてからの集団戦は、小説だと絶対に書ききれないし。逆に一対一の心理戦は小説の得意技だから気合い入れて書くし。それだけの話なんだ」
 よし、芽宮の表情から、固さが完全に消えた。切り込むなら今だ。
「だからさ、俺は芽宮の味方なんだ。芽宮の演じる橘華を、俺は100%肯定している」
「それは」
 芽宮がためらう。あれ? 失敗した?
「あの、ひとつだけ、気になることがあって。センパイにとっては、答えにくい質問だと思うんです。でも、味方だと言ってくれるのなら、本音を聞きたいっていうか、その」
「問題ない、何でも聞いてくれ」
「じゃあ」
 俺から微妙に視線を外す芽宮。
「アクションシーンのコスチュームなんですけど。『女護ヶ島』だと描写の説明はないですよね。『戦国ワルキューレ』では、変身ヒロインみたいに格好良く演出して、デザインも派手になっています。センパイは最初は反対していたって聞きました」
 ぎくり。話題が微妙なところに突入しようとしている。
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