作家の異常な愛情

Ⅳ 映像化の複雑怪奇、カネと欲望が渦巻く魔界 原作改変なんて大した問題じゃない【後編】

 逸らしたい気もするが、何でも聞いてくれって言ったしなあ。
「いや、反対、とまでは言ってなかったんじゃないかなー」
「コスチュームデザインしてもらった猫将軍さんが期待以上にエロ可愛いの上げてくれて俺は一発OKだったんだけど、センパイが乗り気じゃなかったとか。江戸時代に『ロリポップチェーンソー』はないだろ、って」
 ロリポップチェーンソー。カントクが大好きなホラーアクションゲームだ。これがまたすごいゲームで、

・チアリーダーの女子高生の裏の顔はゾンビハンター。ゾンビ災害で大パニックになったアメリカの西海岸を舞台に、首だけになったボーイフレンドをお供にチェーンソーを武器にゾンビを狩りまくる

 というブッ飛んだ内容。なんでチアリーダー、なんでチェーンソー。日本じゃあまり話題にならなかったが、カントク同様、ゾンビとお色気が大好きな海外でバカウケして、10年経ってリメイク版まで出ている。
 そのブッ飛んだ主人公や首だけボーイフレンドをデザインしたのが猫将軍さんだ。敵役のゾンビもイカれたキャラクターばかりで、いいゲーム、いいデザインなのは俺だって認める。
 でもなー。
「センパイは、エロ可愛いのは『女護ヶ島』のイメージとは違うと思ったんですよね? さっき、『女護ヶ島』のファンには比較的高年齢の人が多いって聞いてわかった気がするんです。『戦国ワルキューレ』のお色気描写が過剰だ、ってクレームを入れてくるの、やっぱり年齢層高めの人ですから」
 俺の前でエロ可愛いとかするっと言えちゃうの、さすがプロだな。すごいよ。コスがエロ可愛いのはその通りだけど、俺もそう思うけど、橘華とか特に。でもそれを橘華をやっている芽宮の前で認めるのは、とてつもなく恥ずかしい感じがする。
「それは、だね……実に、なんと言うか、非常にデリケートな問題なんだ。いや、もともとのファンにそういう人が多い、というのもその通りではあるんだけど。
 反対っていうか、そこまで考えていなかったというか。小説では必要ない描写だし、そもそもおかしいだろ、江戸時代で変身ってさ。まあそこは、歌舞伎の早変わりみたいな演出で上手く見せてたけど、変わった後のコスチュームがさ、どう見ても、刃物振り回す戦闘に向いてないだろ、あれ。防具ないだけじゃなくて、肌の露出は普段より上がってるし。小説でアレやったらすごいウソくさくなるぞ」
「それは、映像なんですから、見た目のインパクトが強みになるんじゃないですか? それぞれの強みを活かすって、センパイも言ってましたよね?」
「そうなんだけどさあ、さすがにちょっと反則過ぎる気がして。芽宮の言う通り、ちょい年齢が上の人には、強みになるどころかむしろ敬遠されちゃうんじゃないかって思ったんだよ。子供向けすぎるとかリアリティがないとか、そんな感じで」
「そうですね、クレームを入れてくる人はそういうような事を言います」
 頷いた芽宮は続けて畳みかけてくる。
「でもわたしが聞きたいのは、ファンがどう考えるかではなくて、センパイ自身が、『戦国ワルキューレ』のお色気描写をどう考えるか、なんですけれど」
 エロいのありがとうございます、だけどね。シャイな俺にはそれを言えない。
「いや、俺にとってはファンがどう考えるか、のほうが重要だったんだ。で、Gさんに相談したら面白いことを教えてくれたんだ」

『セーラームーンを知っているか? 永斗』
「昔のアニメだよね。女の子に大人気で、かなり長く続いたんだって? 女の子が戦うアニメだから、一応、観てはみたけど、少女まんがの味付けが強すぎて俺は楽しめなかったかな。女の子が感じる格好良さってこうなんだ、ってのは新鮮だったけど」
『昔、なんだろうな。放映開始が1992年、もう30年以上前になるのか。年は取りたくないな、永斗。まあそれはいい。『戦国ワルキューレ』な、お前がコスチュームデザインに不安を感じるということは、ひょっとしたらだが、セーラームーン並の大ヒットになるかもしれないぞ』
「いや、言ってることがわからない。俺が不安になるのと大ヒットと、どういう関係があるんだ?」
『当時は、アニメ業界に近い、コミック編集部にいたんだがな。『美少女戦士セーラームーン』というタイトルと、あの変身後のデザインが発表されたとき、セーラームーンが大ヒットすると予想した編集者や作家は周りにいなかったぞ。不安を感じていたどころじゃない、大外しするに違いない、とまで言う者も少なくなかった』
「ええ? セーラー服ベースの普通のデザインだと思うけど?」
『今の目で見ればな。当時の認識は違うんだ。セーラームーンが変えたと言ってもいい。女の子が戦うアニメ自体は、セーラームーンが初めてというわけじゃない、それ以前にもいろいろあったさ。それこそセーラー服の短いスカートをひらひらさせて走り回ってアクションする、なんてのもあった。
 だがな、そういう類のアクションは、一般向けできないと認識されていた。男性オタク層だけに向けた、狙いがわかりやすすぎる、18禁とまでは言わないが一種のキワモノ、あまり大声でファンだとは言いにくい、そういう扱いがされていた。スタジオジブリの宮崎駿さんがそのものズバリのことをインタビューで言っていたな。ググれば出てくるぞ……ああこれだ、『セーラー服が機関銃撃って、走り回ってる様なもの作ったら絶対ダメなんです。絶対ダメなんです』ってな。1986年の記事だな』
「ええ……宮崎さんこそ好きそうな感じだけど。ナウシカとかあるし。セーラー服じゃないからOKなのか?」
『まあこれは、趣味人としてではなく、一般的な良識を大事にする大御所としての発言が求められたから、なんだろうな。あの人はそういう使い分けをするよ。要するに、セーラー服でバトルアクション、は少数派の人間の趣味で、多数派の人間の前ではあまり大っぴらにひけらかさないもの、という認識だったのは確かだ。
 そこに、あのセーラームーンだ。コミックは少女まんが誌で連載、ほぼ同時に、アニメを日曜夜6時半のゴールデンタイムで全国展開すると言う。女児向けに本気なのはいいが、あのデザインだけはない、オタク臭が強すぎる、女児には敬遠されてしまう、というの意見が圧倒的だった。あざとすぎる、とか、狙いすぎとか言われていたな』
「いや、確かにスカートとか短めだけど、そこまでではなくない?」
『当時はまだもう少し長いのが一般的だったんだよ。ああいう改造セーラー服は、それこそ風俗の世界にしかなかった。だから、口の悪い奴は、どこが美少女戦士だ、キャバクラ戦士なら納得できる、とまで言っていたな。要するに、女児を狙いながら、センスがオヤジ臭くズレているんだよ』
「まあ、それはなー。名乗りが、愛と正義のセーラー服美少女戦士、月に代わってお仕置きよ、だっけ? 愛とか美少女とか自分で言っちゃうのはどうかと思わないでもないし、俺ならもうちょっと格好良くするかな、とも思うけれど、あれはそのズレも含めて楽しんでたんじゃないの、当時のちっちゃい女の子達は」
『結果的にはな。だからこれは、セーラームーンはデザイン含めて、当時の常識から見ると冒険的な企画であって、その冒険を完遂して成功させ、常識をひっくり返してしまったところがすごい、という話だ。
 『戦国ワルキューレ』のデザインも、お前が気にする程には、世間は気にしないかもしれないぞ? そもそも、広告代理店チェックだって入るだろう。あそこはマーケットリサーチが仕事なんだから、データ取って、本当に問題があればストップがかかるはずだ』
「そうなのかなー? 大丈夫なら、いいんだけどさあ」

「セーラー服の何がいけないんでしょうね。エッチに見せるのがいけないんでしょぅか。センパイはエッチだと思いますか?」
「いや、俺がどう思うかじゃなくて、こういうの、声の大きな人が気にしがちだから、無駄に騒がれたら困るなって話だよ」
「まー、ジェンダーがどうこうっていうハナシっスよね」
「そういう意味で面白いのは、セーラームーンもまったく問題なし、とはならなかったってところだなー」
 編集長、パソコンで何かを検索している。
「女性は主役になってもジェンダーロールから解放されていないのが問題だ、みたいな論調が、アメリカであったらしい。ロングヘアにミニスカート、アクセサリー、化粧して変身する、スリムなスタイル、男性的価値観に支配されている、みたいに批判する人もいた、みたいだぞ」
「30年前ッスよね?」
「1997年にケーブルテレビに乗ったのが最初っぽいな。このあたりの時代だとネットに生情報残ってないから困る……批判されてたのはその時期の話みたいだ。今ならポリコレとかLGBTQとかの話になるんだろうが、昔だからなー。ジェンダー論、とかいう言い方になるのかな?」
 芽宮もスマホで検索している。横から福地も覗き込む。
「今はネットの動画配信も始まって、子供の頃観ていたアメリカの人も楽しんでいるみたいですね。昔より今の方が、そういうのには厳しそうだけれど、大丈夫なのかな?」
「ポリコレの人は今、ハリウッド映画の論争で忙しいんじゃね? ほら、『白雪姫』とか大騒ぎになってるし」
 あれなー。
 ディズニーの有名なアニメの実写版リメイクだが。

「100年前の映画だから女性観がもう古い。現代風にアレンジするよ、白雪姫は白くないよ、ロマンチックな恋愛なんかに憧れてないで行動して自立するよ」

 的アピールが強すぎて、論争になってるらしい。
 ディズニーが、ポリコレにこだわりすぎておかしくなったのはいつからだろうな? 『アナと雪の女王』が、2013年か。あれはあれで面白かったけど、女の自立、恋愛じゃなくて多様性、これがヒットの条件、みたいな解釈をされて、ルーカスフィルムを買収して作った『スターウォーズ』もヒロインを主役にしたり、アメコミ原作でも女性キャラにスポットを当てたりしている。『ワンダーウーマン』もそのうちに一本なわけだが。
「『格好良く戦う女の子』に、異性との恋愛や男性視点の性的要素は必要ない、ってところまでは俺も賛成なんだけど。ポリコレの人の反応は過剰に感じるよな」
 思ったことが声に出ていたらしい。みんながこっちを見ている。
「確かに、白雪姫役の人の過激な発言が問題になってますけど。主張があるにしても、旧作の『白雪姫』を貶めるような言い方をするのはどうかと思いますよね」
「そう思う人が少なくないから、騒ぎになってるんだろうな。アメリカは実力主義で競争社会な面があって、戦って勝つのが正義だから、日本人からすると、言い方が攻撃的すぎると感じることはよくあるけど。最近は、それじゃあただの誹謗中傷だ、みたいに向こうでもやりすぎだと思う人もでてきてるってことだよな。去年の大統領選でも、リベラルが負けたのは、保守に対するネガティブキャンペーンのやり過ぎが原因だったんじゃないかって話もあるし。
 話がずいぶん大きくなったけど、『戦国ワルキューレ』のコスチュームや演出も、そういうふうに騒ぐ人がいないわけじゃないからさ、原作者としては気になるわけで」
「わたしは、気になりません。騒ぐ人がいるのは知ってますけど」
 きっぱりと、芽宮は言った。
「わたしは、わたし自身が、橘華が可愛くて格好いいと思うから、橘華を可愛くて格好よく演じているつもりです。男とか女とか関係なく、可愛くて格好いい、と思ってもらえるように演じているつもりです。それを、オトコの価値観に支配されている、とか、決めつけられるのは心外です」
「だよねー」
 俺より先に、福地があいずちを打った。
「エロい目で見られたくない、って人もいるんだろうけどさ。エロいのを自分の魅力のひとつだ、と思ってる人を否定しちゃうのはなんか違うじゃんね。俺は好きだよ、エロくて可愛くて格好いい橘華も、橘華を演じてる宮城ちゃんもさ」
 くそっ、全部言われた。しかし、エロい、とかさらっと言っちゃえるの、すごいと思うよ福地。まあ芽宮がさきに言ってるわけだが、男性目線で肯定するのは、俺にはちょっとハードルが高い。
 とか思っていたら。
「あの、福地君、橘華って、エロいですか」
「え? いや、そうやって訊かれるとなあ」
 さすがの福地もストレートには返せないようだ。困っている。
「わたしはですね、正直言って、橘華がエロい、エッチだって言われても、わからないんです。撮影のたびにカントクからは、もっと色気出せよ、とか、コスのせっかくのエロさをわかってない、とか言われてるのに、『戦国ワルキューレ』を観た人からは子供に見せたくない、健全な精神の成長を阻害するポルノだ、とかも言われるんです。言うのは私と同じ女の人なんです。カントクは男の人です。これって、わたしの橘華は男の人が見るとぜんぜんエロくなくて、女の人が見るとエロすぎるってことですか? どっちなんですか? 男に媚びている、とかも言われるんですけど、どうすれば媚びている事になるのか、教えて欲しいです。媚びたいですよ、媚びられるんなら」
 勝手を言われて、腹が立つのか、悲しいのか、芽宮は堰を切ったようにまくしたてる。
「わたしは女だし、わたしが考えるお色気なんて、男の人には通じないのかって思うんです。そういう本とかビデオとか見ても、わからないんです。脱げばいいんですか? 胸とか脚とか見せればいいんですか? そうじゃないんですよね? エロって、なんなんですか? わたしはそれを知りたいんです。男の人がエロいって感じる、それも橘華の魅力の一つだと思うから」
 そうだね、見えないほうがエロいってのもあるし、なんなんだろうね。理屈じゃないんだけどさ。
 とか思って何も言わずにいたら、芽宮に勘違いされる。
「ひょっとして。センパイも、エロいのはあまり良くない、と思ってるんですか?」
「なんでそうなる!?」
 心外だ。
「だって、『女護ヶ島』にはお色気的描写はないですし。コスチュームデザインもエロ過ぎと思って迷ったんですよね?」
 違うんだが。でも俺は悪あがきを続けてしまう。
「『女護ヶ島』にお色気描写がないのは……『女護ヶ島』が小説だからだ。
 マンガや映画ならさ、ビジュアルがある、絵がある、1コマの中に、1カットの中に、たくさんの情報を入れる事が出来る。女の子が立ったり座ったりするときに構図を少し工夫するだけで、例えば、後ろから、お尻を斜め下から見上げるように撮るだけで、それはサービスカットになる。
 小説でそれをやろうとすると、それを全部文章で表現しなくちゃいけない。例えば、『戦国ワルキューレ』の橘華のコスチュームだな。あの魅力、あのエロさを、お尻から太腿にかけての陰影を、柔らかさを、絵で見せれば一発で伝わるエロさを、文章で表現しようとするとそれだけでページが埋まってしまう。
 多分だけど、お色気描写をやろうとすると、『女護ヶ島』の半分くらいはそういうエロい描写で使う事になる。時代小説じゃなくてエロ小説になっちゃうんだよ」
「エロ小説は書きたくなかった、という意味ですか?」
「いや、書きたくないとかじゃなくて、小説でできることには限りがあってさ」
「だからですね、う~ん」
 困ったように苦笑いする芽宮。
「じゃあセンパイは、書こうと思えばエロ小説版『女護ヶ島』を書けるくらい、エロが好きだし、実はキャラクターたちをエロい目で見ているんだって思ってもいいですか?」
「ええっ!?」
「あごめんなさい、言い方を間違えました。言いにくいですよね、わたしには。さっきから、自分がどう思うか、については絶対に言わないですし。でも、わたしとしては、そこが一番気になるんです。橘華というキャラクターを演じているわたしとしては」
 頬をちょっと赤らめて、俺から目を逸らしつつ、芽宮は続ける。
「センパイはわたしの味方なんですよね? だったら、センパイの感じたありのままを教えてください。センパイはわたしの演じる芽宮がエロいと思いますか? 橘華は、エロくていいんですか? えーと、はっきり言うとですね」
 言葉を切って、続ける。
「センパイは、その、わたしの演じる芽宮で、たっ、勃ちますか?」
 こ、これは。どう答えるのが正解なんだ? どう答えれば、芽宮に自信を持ってもらえるんだ? 芽宮はエロくて可愛くて格好良く演じている、それを肯定してあげればいいのか?
 いや、違う。
 芽宮は、味方なら俺が感じたありのままを教えてくれ、と言った。俺は芽宮の味方だ。だから、ありのままを教えなければならない。俺の男としての見栄とか、年上の余裕とか、すべて捨てて、答えるべきだ。
「ドラマでは、橘華の初登場は第2話、ファーストカットは夜の闇に浮かび上がる後ろ姿だ」
「そう、ですね」
「芽宮が演じた橘華を、初めて見たんだ。あのお尻が、俺は忘れられない」
「お、お尻ですか?」
「ああ。あれは、とてつもなくエロく見えた。勃つかって? 勃つさ、俺はあれから勃ちっぱなしだ」
 負けた、と思った。俺の書きたかった橘華のお尻がそこにある。でも俺は書けなかった。俺が書けなかった橘華を、芽宮は見事に演じていた。
「さっき、ページさえあれば『女護ヶ島』をエロくできると言ったけれど、ちょっとウソだ。俺には、芽宮のあのお尻は書けない、あそこまでエロくできない。芽宮はそれを誇るべきだ。
 芽宮が男に媚びている、とか言われても、気にする必要はないんだ。芽宮は媚びてない。男ってのはさ、媚びられてもエロくは感じないんだ、ほら、こういうのがエロいんでしょ、こういうの好きなんだよね?とかアピールされると、むしろしらける、勃ったものも萎える、エロいこと考えてるだけで経験はない、俺みたいな未成年の男はだいたいみんなそうだ。その点だけでも、フェミニストみたいな連中はなにもわかっちゃいないって事が明らかだ。
 芽宮みたいに、何がエロいのかわからない女の子が、格好良く戦っている最中に無意識に見せる、女性としての何か、何かとしてか言い様がない、色気でも魅力でもなんか違うんだけど、それが」
 俺は芽宮を正面から指さしてみせる
「エロいんだ。だから、芽宮は今のままでいい、今のままがいいんだ。カントクが言ってるエロとか色気は、オヤジエロが入ってるから気にするな、そういうのは経験ありすぎて向こう側に行っちゃったプロの領域だ、マジョリティは芽宮や俺の味方だから」
「な、なるほど、です、はい。媚びられてもエロくない、無意識が大事、っていうのは、目から鱗です。そういうものだと納得しそうです、女のわたしでも」
「そういうものなんだ。わかってほしいけど、わかられてしまっても困る、男の求めるエロってそういう我が儘だ、で、俺は実はとてもエロエロで我が儘なんだ、俺の筆力では書けなかったけれど、俺の頭の中にある橘華は、エロいんだ、芽宮の演じる橘華がエロくなかったら、俺の橘華じゃあなかったとしたら、お世辞なんか言わない、はっきりと、エロくないと言う、ここをこうしてくれって注文をつける。そんな俺がエロいって言ってるんだから、芽宮はそのままでいいんだ」
「自信を持っていいってことですか?」
 あれ? 俺は味方だから自信を持ってくれ、と言いたかったのは確かなんだが、こと橘華のエロさに関してならば、ちょっと違うか?
「どうすればエロいのか、わからないままでいてくれたほうがいいよな? うん、そのほうがエロい。エロに自信を持ちすぎるとエロくない気がする。だからそのままでいいんだ」
「む、難しいですね?」
「ごめんな、だから我が儘なんだよ。たぶん、芽宮は意識しないでいい、考えすぎないでいい、エロについては程よく悩んでくれ。それは違う、エロくない、と思ったら、その時に俺が言うから」
「わかりました」
 芽宮は笑って頷いた。
「わたしじゃなくて、センパイを信じます。センパイのエロさを」
 それでいい、のかな?
 センパイは勃つんだって。福地君は勃つ? とか訊かれて、福地が、いやーそれはちょっと言いにくいかな、想像にお任せします、とか逃げている。あの野郎。俺だけ何か、先輩や原作者としての見栄とか自負みたいなものを失ってしまった気もするが、芽宮が信じてくれてのならそれでいい、うん、いいんだ。
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