
2025年03月22日
どうも。河嶋陶一朗です。
先日、黒帯CHANNELさんの「【TRPG】秘密の秘密!」という動画にゲストで出演しました。
そこで『シノビガミ』作成にあたって、どうして【秘密】が生まれたのかという話をしています。
ほかにも『インセイン』などの【秘密】についてもお話しています。未視聴の方はぜひご覧ください。
動画のなかでは「PvPをしたかったから」という非常に簡単な説明で終わらせています。
ここの辺りの説明は『シノビガミ』発売10周年の折、Role & Roll Vol.173にコラムを書かせていただいたので省略した次第です。
ただ、あれから時が経ち、その記事を読んでない方も増えたと思います。
そこで編集部の方に許可をいただいたうえで、その記事を再掲させていただくことにいたしました。
写真やキャプションは、再掲するにあたって改めて付け加えたものです。
元々ブログ用の記事ではなく、少し長めで読みにくいかと思うのですが、ご興味ある方は動画のお供に読んでいただけたらと思います。
* * *
この記事は、発売から10周年を目前にひかえ、改めて書いてみたデザイナーズノートのようなものです。もしかすると開発メモという方が正確かもしれません。とりあえず、『シノビガミ』がつくられた背後にあった考えを書いています。
すでに自分の遊び方が確立されておられる方にとっては、今更感のある文章になるかもしれませんが「なんか言ってら」くらいな感じで、ご笑覧いただければ幸いです。
このコラムの初出は2019年。あれから6年が経ち、すでに『シノビガミ』は発売から15周年です。びっくりですね。
さて、『シノビガミ』の話に入っていく前に、自分の信仰について語らせてください。河嶋は、週刊少年ジャンプで連載されているバトル漫画が大好きです。愛読しています。
その中でも、『キン肉マン』や『聖闘士星矢』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ワンピース』、『BLEACH』、『ワールドトリガー』なんかが好きです。特にキャラクターが、たくさん出てくるやつが好きです。それぞれ、色々な特殊能力を持ってたり、印象に残る性格だったり、奇抜な外見だったりすると特によいです。そういうキャラがいっぱい出てきて、色々な組み合わせで戦いを始めるとたまりません。いいところで終わると「くはぁーーーーーッ。いいなぁ。このマンガ最高だなぁ」と変な声が出て、次週が楽しみでたまらなくなります。そんなとき、自分で自分の顔を見ることはできないのですが、たぶん気持ち悪いくらい、にやにやしていると思います。
そんな人間なので、『シノビガミ』も、格好いい特殊能力を持つ色々なキャラクターが魅力的な戦闘を行うテーブルトークRPGを目指してつくり始めました。
現在もアプリで毎週欠かさず読んでおります。『しのびごと』、『カグラバチ』、『魔男のイチ』が好きです!
ただ、その条件に当てはまるようなテーブルトークRPGは、2009年当時、すでにたくさんありました。いや、たくさんあった、というのは控えめな表現かもしれません。
なんと言っても、2009年当時のテーブルトークRPGはルールの多くをキャラクター作成と成長、それにまつわるデータが占めていたような気がします。そして、次に多くの割合を占めていたのは、戦闘ルールとモンスターのデータだったのではないでしょうか。
少なくとも、ルールブックに割かれた分量的な意味で言うと、当時流通していたほとんどのテーブルトークRPGが「格好いい特殊能力を持つ色々なキャラクターが魅力的な戦闘を行う」ことに比重を置いていたと言っても過言ではないでしょう(もちろん、2005年河嶋が編集をお手伝いした『Aの魔法陣』や、2007年に発表された『野球TRPGボールパーク!』のような作品もありましたが、数のうえでは、少数派だったような印象があります。付け加えるならば、河嶋自身、もちろん、そういうゲームも大好きです)。
2009年初頭の河嶋といえば、「小学生と一緒にゲーム! これは絶対くるでぇ」と自信満々だった『ご近所メルヒェンRPG ピーカーブー』の反響が、まぁまぁだったことを受け、途方にくれておりました。デビュー作『アジアンパンクRPG サタスペ REmix+』や次作『シニカルポップダンジョンシアター 迷宮キングダム』は好評だったものの、これらの作品はホビーベースイエローサブマリン様から発売されていたため、書籍流通作品ではありません。ホビーショップに行かないような人からは、まったく知られておらず、しかもイエローサブマリン様がテーブルトークRPG開発から撤退されたことで、河嶋としては「ここで成功作が出ないと後がないなぁ」と追い詰められていました。とりあえず次は「忍者もの」というお題だけは決まっていましたが、どんなゲームにするかはサッパリ決まっていません。「魅力的なキャラクターたちによる、魅力的な戦闘」というだけでは、ほかのゲームに埋もれてしまうと考えた河嶋は、ぜんぜん書けなかった原稿を一旦置いて、いま一度、大好きな週刊少年ジャンプを読み直しました。
その頃は『HUNTER×HUNTER』で、王とネテロ会長が戦っているところでした(まぁ、超強いキャラ同士の戦いだと思ってください)。「マジか、そんな手でくるか!」と、いつものようにキャラクターたちが魅せる熱い戦いと、作者の技巧に興奮しつつも、河嶋は、何となく思います。
「バトル漫画の戦闘って1対1が多いな」
作画的にも、キャラクターの内面などを描くという点からも、複数のキャラクターが入り乱れて戦うというのは難しいのでしょう。そう思って記憶を掘り返してみると、印象に残っている戦いの多くが1対1のものでした。もちろん1人の敵をチームワークで攻略するような展開もありましたが、それはお話のボス的存在相手に行うことが多く、1対1に比べると少ない印象でした(そんな中、『ワールドトリガー』は、複数のキャラクター、複数の勢力がぶつかり合う乱戦を描きまくっています。敵味方各々が戦略を持ち、戦いにのぞむ姿は、テーブルトークRPGもの的には、非常に見るべきところが多いです。特にGM諸氏には一読をお奨めいたします)。
なるほど。1対1の戦闘が多いテーブルトークRPGをつくれば、気軽に四天王とか、五将軍とか出せて魅力的な戦闘シーンが描けるかもしれない。うん、これは面白そうです。
しかし、そう思って見返してみると、テーブルトークRPGの戦闘は乱戦・チーム戦が主体でした。敵軍団vsPCという構図がその大半で、GMの負担を考えたものか、強敵1体vsPCという展開もよく見られました。
当時のテーブルトークRPGは、3〜6人のプレイヤーで遊ぶのが、よくあるスタイルでした。そうしたPCたちのために、多くのゲームに『ダンジョンズ&ドラゴンズ』から続く伝統的な役割分担制をアレンジした、魅力的なチーム戦闘ルールが用意されていました。時折、物語を盛り上げるために1対1の戦闘が挿入されるシナリオもありましたが、そもそものルールがチーム戦として機能するようデザインされたものなので、望むような結果を得られないことも多かったように感じます。
しかし、なぜ1対1の決闘を扱ったルールは少なかったのでしょう。
河嶋は、その原因が処理の時間にあると考えました。さきほども述べた通り、戦闘は、テーブルトークRPGのルールの割合の中で、かなりの割合を占めています。その処理は、ほかの処理より複雑で、長い時間がかかるものが多いです。ほかのプレイヤーが戦っている間、ヒマになってしまう。これは、あまりうまくありません。
しかし、問題点がそれだけなら、幾つかの工夫でゲーム化できるかもしれません。そして、忍者ものというモチーフと1対1の戦いは相性がよさそうです。山田風太郎作品──『甲賀忍法帖』のような一発芸を持つ忍者たちの忍術バトル。うん。いけそうです。
そして「1対1の戦闘が楽しいゲーム」というコンセプトを元に、システム作成を開始しました。
お恥ずかしながら当時は映画『魔界転生』とせがわまさき先生のコミック『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』しか山田風太郎先生の作品に触れたことがありませんでした。『シノビガミ』作成にあたって片っ端から読んでいったのですが、自分の好きだったコミックや映画との共通点を数多く発見し、その先進性に驚いたものです。
問題の改善案は、すぐに思いつきました。ようは1回の戦闘を短くすればいいわけです。「1点でもダメージを受けたら負け」とすれば、すぐに戦闘は終わるでしょう。「攻撃に使った特技で回避判定をすれば、相性戦っぽくなるかも」というアイデアも思いつき、採用してみました。完成したプロトタイプは、ほかにはないユニークな戦闘システムに見えてきました。
「なんたる天才」と自惚れつつ、自分がGMになって、プロトタイプのテストプレイをしてみました。PCたち、現代の忍者たちが「戦極死天王」の持つ奥義書の欠片を奪う、というシナリオです。データを作成するのが大変だったので、PCたちにはプレロールドキャラクターを用意しました。名前や設定くらいしか作るところは無かったのですが、プレイヤーはノリノリでキャラクターの設定をつくり、とにかく戦うことが大好きなバトルジャンキー剣豪忍者や過去の記憶を失ったサイバー忍者、一度見た忍法はすべてコピーできる天才少年忍者、勝つためならあらゆる卑怯な手を使う妖術使いなどができました。セッションの結果も面白く、1回の戦闘の軽量化にも、そこそこ成功していました。ですが、河嶋的には問題点は山積みでした。
まず、1対1という戦闘を行うために、GMは何人もの敵データを用意しなければいけませんでした。しかも、それぞれが魅力的な敵である必要があります。個人的には楽しい作業でしたが、用意した手間に比べ、1ダメージで倒されてしまい、無駄も多い印象でした。
しかも、4人の特徴的な敵役を演じ分けるには、河嶋のGM力はつたなすぎました。市井のGMは、河嶋よりもう少し上手にロールプレイできるでしょうが、それでも毎回、こんなことするのは大変かもしれないという印象です。敵役の引き出しがたくさん必要になりそうです。
それに軽量化したとは言え、プレイヤーがヒマそうにしている瞬間は時々訪れました。たしかに、1ダメージを受けると負けというルールは、緊張感を高めてくれました。しかし、PCvsNPCという構図だと、何となく「プレイヤーが勝てないような敵は出てこないんじゃないの?」という油断のような気分がテーブルを支配して、緊張感が薄れることもあったのです。
それに、セッションはたしかに面白かったのですが、戦闘部分だけを見てみると、従来のチーム戦に比べ、突出はしていませんでした。むしろ、各プレイヤーが1回ずつしか戦闘をしなかったため、戦闘の面白さはチーム戦に劣るような印象を受けました。
GMが用意した敵とPCが1対1で戦うというコンセプトは、その後『魔道書大戦RPG マギカロギア』に引き継がれていきます。1対1の緊張感は残しつつも、立会人という形でメイン戦闘者以外のヒマを解消しようとしています。ほかにも「PC側には【秘密】がない」など、『シノビガミ』で感じた問題点を解消するようなデザインが多数見られます。こちらも思い入れのあるゲームなので、どこかでデザイナーズノートとかを書けるといいなぁ。
テストプレイの結果を踏まえ、テーブルトークRPGには、1対1はむかないのか、と頭を抱えました。〆切りまでの時間は、もうあまり残っていません。
自分のゲーム作家人生もおしまいか? という気分になったとき、天才少年忍者をやっていたプレイヤーが、PCの自己紹介を終えたときの会話を思い出しました。
「で、ぼくのPCは仲間たちを見下してますよ。『ふん、ゴミ虫どもめ。天才のボクの足を引っ張るようなら、仲間といえども始末するよ』」
「おー、忍者ぽい」
「漫画なら、絶対このキャラ2話くらいで主人公に負けて、デレそうだよね」
「で、仲間になると弱くなるんでしょ(笑)」
たしかに、そのキャラは、美形のライバルキャラっぽい雰囲気でした。そうして思い返してみると、ぼくの作った名前だけ凝ってる「戦極死天王」より、プレイヤーたちのつくった忍者たちの方が、よっぽど悪の四天王っぽかったのです。各自、イキイキして個性もはっきりしていましたし、プレイヤーにありがちなことではありますが、ルールを駆使して卑怯とも言える手を使っていたので、NPCに対して同情的な気分になった場面も多々ありました。
そこで、いっそのことPCたちに敵の四天王をやってもらうことを思いつきました。『甲賀忍法帖』に登場する忍者たちは、どちらの陣営にも「どう考えても敵役だろ」って感じの忍者がいます。時に卑怯と思える行いをする忍者ものなら、一般的な善悪とは異なる価値観で戦いあうものです。
いっそのこと、PC同士で戦いあってもらうといいでしょう。敵の四天王には、裏切って主人公の仲間になるやつが付き物です。一枚岩ではなく、競い合う関係のPCたち。それなら、問題点が改善できそうです。
実は敵役っぽいPCをメインに据えてもいいかなぁ、と思った理由はもう一つありました。それは『デッドラインヒーローズRPG』の著者である長田崇さんとの会話です。彼は『サタスペREmix+』の担当編集でした。当時、発売されたばかりの『トーキョーNOVA The Detonation』の表紙をほめちぎり、奥にいる敵っぽいキャラクターをさして「あれこそ、みんなのやりたいキャスト像ですよ」と力説していました。そのことが強く印象に残っており、「長田さんも、ああ言ってたし、やってみるか」と決断できました。長田さん、その節はありがとうございます。
プレイヤー同士が戦うことになれば、「魅力的な敵」問題は解決しそうです。本当はすべてを知っているGMが、知らない振りをしつつ、4人の敵キャラクターを多重人格的にロールプレイをするのは大変です。もちろん、世界は広く、それを難なくこなす超人的なGMがいるのも知っています(速水さんとか、田中天さんとか上手です)。ただ、少なくとも河嶋がGMするのであれば、1キャラ1プレイヤーに担当してもらった方が、敵役としても魅力的になるような気がしました。
そして、「敵データ作成の手間」問題も解決です。解決というより、改善といった方がいいかもしれません。ほかのゲームに比べても、大幅にGMの敵データ作成の手間が楽になります。プレイヤーたちが、勝手に敵データをつくってくれるわけですから。
「ヒマ問題」も、いくらか解決できそうです。ここで、この問題を説明するために「ヒマ」という単位を定義しましょう。1ヒマは、1回の戦闘において、1人のプレイヤーがヒマになったことを意味します。4人のプレイヤーで遊んだとき、1回の戦闘で4人がヒマなら、4ヒマが発生したものとして扱います。
そんなひどいシナリオではなく、標準的なシナリオであれば、少なくとも戦闘に参加したプレイヤーはヒマではないと仮定します。その場合、テストプレイを行ったプロトタイプでは、1回の戦闘につき3ヒマが発生します。しかし、プレイヤー同士が戦うことになれば、1回の戦闘で2人のプレイヤーが参加します。つまり、発生するのは2ヒマとなり、プロトタイプに比べ、ヒマ問題が1.5倍改善されるのです。
いいアイデアな気がしてきました。
その後もヒマ問題に関しては色々と改善案を試行し続けています。最近だと「プレイヤーが2人であれば1ヒマしか発生しないはず」という力業での解決案としてシナリオファイルシリーズを展開中です。こちらは今のところ協力型ばかりですが、いずれ対立型の2人用シナリオも書いてみたいです。
しかし、より大きな問題が目の前に現れます。「プレイヤー同士が戦うゲームは、テーブルトークRPGにそぐわないのではないか?」という問題です。
テーブルトークRPGというのは、多面的な魅力を持つ遊びです。自身のキャラクターの表現、ほかのキャラクターとの掛け合い、様々なルールの攻略、シナリオの攻略、遊び手自身による新たなルールの創造、参加者同士の議論と発見、世界設定への耽溺……。そうした多面的な魅力を味わうためには、その一部の楽しみに集中するのは危険だと思うのです。とりわけルールの処理に集中すると、ほかの面がおろそかになることは多いような気がします。プレイヤー同士の戦いが発生すると、そうした懸念はより顕在化するでしょう。河嶋のつくるゲームは「ボードゲーム的」と称されることが多いですが、それはルールの処理に時間がさかれ、ほかの面がスポイルされているように感じるからではないか、と思っています(個人的には、この評判には異を唱えたくもあります。多くのボードゲームは河嶋のつくるゲームより精密です。なので、ボードゲームに失礼な気がします。また、河嶋は多くのテーブルトークRPGも、幾つかの特殊なルールや概念があるだけで、広義のボードゲーム──ここではテーブルゲームくらいの意味──の一種だと思っています。これはこれで面白い話ができると思うのですが、本稿においては余談になるので、これくらいにしておきましょう)。
そもそもゲーム的な「勝ち負け」が少ないからテーブルトークRPGを遊んでいるという層も少なくないでしょう。「勝ち負け」があるとしても、河嶋の場合、ルール的な事柄というよりはセッションで得られた充実感や、ほかの参加者の表情などから判断することが多いです。たとえば、凄まじい攻防の果てに、一手足りず、自分のPCが死亡したとしても、そのセッションに非常に感動し、強い充足感を得たなら、ぼくは勝ちだと考えます。反対に、セッション開始5分で敵を圧倒してエンディングを迎えたとしても、ほかのプレイヤーの表情から物足りなさを感じてしまったら負けを意識するかもしれません。テーブルトークRPGの勝敗は、参加者の心の中にあるはずです。
ただ、そこまで考えて、それならプレイヤー同士が戦ってもいいのではないか? という気がしてきました。重要なのは、そのセッションでやりたかったことを参加者ができるかどうか、です。もし、みんなのやりたいことが「見事なチームプレイで敵を倒す」ことなら、このゲームでは満足できないかもしれません。でも、やりたいことが「漫画に出てくる四天王みたいなキャラクターになって主人公と敵対する」ことだったらどうでしょうか? 「元々敵だった2人が戦いを通じて仲間になる」ことだったら? 反対に従来のテーブルトークRPGでは難しいかもしれません。そして、河嶋にしては珍しく前向きに「そういう気持ちを持っている人がいるんじゃないか?」という気分になっていました。
負けられない理由を持つ忍者2人が斬り結ぶシーンが脳裏に浮かびます。
とりあえず、河嶋はやってみたくなってました。
テーブルトークRPGの勝敗と言えば、『シノビガミ』で度々話題になるテーマの一つにセッション終了後の「琴線」があります。これはPCたちのゲーム的な戦いの勝敗以外にも評価軸が欲しかったので用意したものになります。戦闘に勝利する以外の形での活躍──「自分にとってめっちゃ光ったロールプレイだった」、「最高に斬りがいのある悪役をやってくれた」、「ドラマシーンでめちゃくちゃありがたいトスをあげてくれた」などなどを評価する方法が欲しくて実装しました。今のところ、これ以上の形が思いつかないため残していますが、このシステムのせいで傷つき、楽しかった気持ちが冷めてしまうのであれば、本末転倒です。そういう場合は、このルールを不採用にしたり、別の形を模索したりしてもよいと思います。
河嶋のゲームづくりの基本的な考え方に「ゲームが複数ある理由は、人はそれぞれ違うからだ」というものがあります。もし、この世の中がぼくだけだったら、ゲームは麻雀だけでいいかもしれません(テーブルトークRPGの『ストームブリンガー』や『女神転生』シリーズもあると最高です)。
そして、この考え方を進めたものに「1つのゲームで、すべての問題を片付ける必要はない。ほかの問題は、ほかのゲームが片付けてくれる」というものがあります。プレイヤー同士が戦わない名作ゲームは、この世の中にもういっぱいあります。なら、そうでないゲームが、もう1、2個くらいあってもいいでしょう。
そういう理論武装で、不安にフタをして、ゲーム作成を再開しました。不安は、執筆の二番目の敵です(一番目の敵は「面倒くさい」です)。
プレイヤー同士が戦うことにしたことで、幾つか素晴らしいアイデアが思いつきました。そのうちの1つが戦闘シーンです。
プレイヤー同士が戦うのだから、その流れはできるだけ自然なもの──プレイヤーたちの意志に委ねたいと思いました。そうでないと戦わされている感じがしてしまうのではないかと思ったからです。そこで、プレイヤー自身が準備して、自分のタイミングで戦闘を仕掛けられるようにしてみました。それまでの多くのセッションでは、戦闘を起こすタイミングというのは、大抵の場合、GMやシナリオによって決定されていました。これを、プレイヤーが自分の意志で発生させられる方法をルールで保証したのです。これは、当時から今に続く「古くからGMが持っていた権限を、プレイヤーに委譲する」というゲームデザインの流行に適ったものにも思えました。
また、プレイヤー同士が戦うことにしたために、イニシアティブ(先攻・後攻の決定)のルールにも一工夫する必要が発生しました。当時、河嶋は「敏捷力強すぎ」問題というのも感じていました。敏捷力、素早さ、反応力……さまざまな言い方がありますが、こうした数値があるゲームでは、その値が高い方が先攻になりやすいのです。先に動いて敵を制圧すれば、ダメージも負いません。かなりのアドバンテージなのです。しかも、幾つかのゲームは、そうした数値が命中率や回避率にも影響します。そりゃ強いに決まっています。
このゲームの場合、PCはみんな忍者なんだし、全員素早いに決まってます。そこで、敏捷力的な能力値をつくるのは止めました。かといって、イニシアティブを完全にランダムで決めるのも乱暴な気がします。どうせ1点でもダメージを受けると負けなんだから、イニシアティブに駆け引きの要素も入れたいと思い、プロットのルールを導入することにしたのです。
プロットのルールは、ファンブル値や忍法のコストの概念にも影響し、戦闘を独特なものにしました。特にハグレモノの流派忍法である【影分身】を思いついたときは、会心の笑みを浮かべました。忍者のゲームなのだから、分身を面白く再現したかったのです。
【影分身】は好きすぎたので、その後、七原先生に『シノビガミ 流派ブック ハグレモノ』の表紙イラストとして描いていただきました。かっちょいい!
独特な戦闘と、それを行うためのルールができました。この頃には、プレイヤーが戦闘を挑みやすくするためにハンドアウトが導入されていました。
小さなカードに前提となる簡単な設定を記入することで、PCたちが戦うための動機を強化することができました。忍者らしさを上げるため、裏面に【秘密】というものも設定してみます。絶対に味方だと安心してしまうと、プロットが機能しないと考えたからです。
当初は、PCの動機や設定をプレイヤーではなく、シナリオ作成者が決定することに躊躇しました。しかし、導入してみれば、よい点はたくさんありました。ハンドアウトによって戦う相手を指定された方が、ほかのプレイヤーを攻撃しやすいと言われました。特に「上司や初対面の相手を攻撃するとき、指定されているから仕方ない。私の意志ではない」という言い訳を言いつつ、堂々と攻撃できるのはよい、とお褒めの言葉をいただきました。それに、【秘密】を調べるルールを導入することで、情報戦が生まれ、より忍者らしさがアップしたのです。どんでん返し的展開や、ミステリ的なシナリオもつくれるようになりました。
【秘密】という発明は『シノビガミ』のシナリオを、かなりコンパクトなものにしました。その一方で、セッションの展開は予測不能になり、シナリオで状況や場面設定などを細かく行うことは難しくなったのです。
一部のプレイヤーを除いて、何もない状況からロールプレイをしたり、シーンを組み立てたりするのは難しそうでした。そこで、河嶋は「シーン表」を用意しました。お芝居における書き割りのようなものです。精密な舞台や状況ではないものの、ロールプレイを行うためのちょっとしたお題をランダムに抽出します。このルールは、他愛のないものですが、シーンの演出をGMでなく、プレイヤー主導のものにすることに一役買っていると思います(『シノビガミ』の話になると、PC同士の戦いや【秘密】がよく出てきます。ただ、個人的にはこの「シーン表」も『シノビガミ』が生み出し、後の多くのテーブルトークRPGに採用された発明の一つだと思っています)。
このコラム執筆時は『シノビガミ』ではじめて実装したようなことを書いてますが、実はその前に発売された『アジアンパンクRPG サタスペ』ですでに「描写表」という形で同様のものを実装しておりました。『サタスペ』はDD(GMのことです)主導でセッションが進むので、あまり活用されなかったため忘れておりました。お詫びして訂正します。
と、このあたりまでつくったところで〆切りがきてしまい、なんとかかんとか三日くらいで書き上げました。十年前のぼくは若いですね。今なら絶対無理です。「敵データをつくるのがプレイヤーなもんで、戦闘バランスがとりずらい」とか、「【秘密】をプレイヤー全員分つくるのが大変」とか、問題はかなり残っていましたが、再び「ゲームが複数ある理(以下略)」と理論武装して、とりあえずまとめることにしました。おかげさまで、十周年をむかえた今でも、独特なゲームであるようで、新しいユーザーの方々にも遊んでもらえているようです。
できあがった『シノビガミ』を遊んでみて思うのは、互いに強い意志を持って戦い合い、勝ったり負けたりすることで、より自分のPCの個性や、他のPCとの関係が浮かび上がることがあるということです。PCたちの、そんな姿を見てみたい方には『シノビガミ』をオススメしたいと思います。自分としては、まだまだ作成途中のゲームだと思うので、今後もサポートを続け、遊びやすくしていきたいですね。『シノビガミ』を遊んでくれるみなさまが、心の満足感を得られますように。
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